今年の秋は長い。ここ南会津の山々は、 例年ならば雪に覆われる時期らしい。しかし天気は上々、気分も上々なのである。
「これは私の頭ぐらいかな?」
「こっちは手の平だな」
「そっちは耳かな?」

大小、様々な大きさと形の落ち葉が登山道を染めている。
そんな「赤の絨毯」をサクサク踏みしめながら沢沿いの登りを ゆったりと行く。

谷間に沸き立つガス
ふと、後ろを振り返ると かなり高度を稼いできた事を実感する。
谷間に沸き立つガスが、なんとも その気にさせてくれる。
駐車場から一時間ちょっとで三吉ミチギと呼ばれる水場に到着。
♪ちょっと一杯のつもりでのんで・・・
いつの間にやら2,3杯。
甘みがあってなかなかイケるぅ。
これは体にいい事あるぞ。
分かっているからやめられない♪~。(笑)

叶の高手への道は、延々と続く急登であった。 しかし、この辺りからようやく会津朝日岳が眼前に現れ疲れも吹き飛ぶ。

豪雪に洗われた険峻な山姿は無言の迫力に満ちている。 ちっちゃな人さまなど、その前では立ち尽くすしかないようである。
と、言い訳を作って、オ-バ-ヒ-トの前にちょっと休憩する事にした。
アンパン、クッキ-、あられ、仕上げにソフトキャンディ。
最近の単独山行時、定番メニュ-である。
今日のランチは15分。あまり昼飯に時間をかけられない。 それならせめて、ゆっくり歩こう。ホントはちょっと疲れたのである。
そんな自分を客観的に眺めると、実にカワイイ行動心理である。
思わず独り、ニガ笑い。

天に根を張る大クロベ
大クロベが天に根を張っている。
ここは果てしのない時間がゆったりと流れる場所である。
ほんの一瞬、私も共に過ごした事を嬉しく思う。
私はこの大きな幹にとって、足元を通り過ぎるアリん子のような 存在。
「どっこいそれでも生きているんだい。」
アリん子もそんな虚勢を張って生きているのかな?と思う。
見渡す限り連なる山々
ここからはもう人里が見えない。改めてこの山域の奥深さに感じ入る。

立ちはだかる岩盤を登り、稜線を 少し進むとそこが会津朝日岳の山頂である。
山頂には展望を教えてくれる モニュメントがある。それにならって、ひとつひとつ山々を確認していく。
至仏、会津駒、越後駒、男体、那須、飯豊・・・
そしてこれから目指す丸山岳。 情景の丸山岳を望む

この稜線は「本州最後の秘境」といわれる奥只見の最深部を縦断する稜線であり、 その中間点である丸山岳は朝日、駒、どちらから見ても秀麗かつ、たおやかな 山容に引きつけられるが、ようとして人を寄せ付けない厳しさを秘めている 奥只見の「核心部」なのである。
一通り稜線を目で追って、方向を確認したら出発だ。
風が強くなってきて悪天の予感。これからは今まで以上に 気を引き締めて未開の縦走路へと足を踏み出す。

ヤブが行く手を阻む
ギザギザの稜線を登下降する。
踏み跡がヤブの中をすり抜けていく。
昭和53年、只見町がこの稜線に登山道を開拓した。
朝日-駒を結ぶ「南会津アルプス縦走路構想」という計画があったらしい。
しかし丸山岳までで計画は途中頓挫し、今では ヤブに帰ってしまったという経緯があると聞く。
これはその痕跡だろうと 潅木のヤブをかきわけながら進んでいく。
雲が多く、悪天の兆し。悪い予感は 当たるものである。

鋸刃ピ-ク
鋸刃のピ-クは崖とヤブ、 稜線でくっきりと別れている。
その境目を縫うように、ヤブを漕いだり、岩場を慎重に 通過したりを繰り返す。
遠く、越後方面が雲に隠れ、丸山岳も霞んできた。
「いや、ガスじゃない。あれは・・・雨か?」
そう思うのもつかの間、小粒の滴が天から舞い下りてきた。
雨とヤブ双方をかき分けながら、 細々とした踏み跡を判別し、登下降を繰り返す。
だいぶ歩いたと時計を見ると30分しか経っていない。
随分密度の濃い山歩きなのである。
幕営に持ってこいの場所に出た。この先の稜線はほとんどがガスに消えている。
ここから先が、「秘境」たる山歩きとなる。
背丈を越える猛烈なネマガリタケ、しつこい潅木と格闘しながら前へ進む。
先ほどまであった踏み跡も今は判然としない。もちろんマ-キングもないので 心の中で「稜線を行けば何とかなる」とつぶやき、道を切り開いていく。
幕営適地より1時間。時計は15:30。辺りが暗くなってきた。
進退極まりつつあり、しばし、考える。
日没までに丸山岳へは到底到達できない事、
このまま、進んでも道の改善は期待できない事、
幕営適地があるかどうかも分からない事、
ヤブ漕ぎと登下降で体力消耗している事、
戻れば約1時間で確実に幕営適地がある事、
進むべき要素がまるっきりない。気持ちは引きずられたが、 「撤退」がベストな選択である。

幕営の朝
テントをたたく音が”ポツポツ”から”サラサラ”へと変わったのは 明け方のことだった。
シュラフにくるまり、「ああ、雪かなあ」と、ぼんやり 昨日の事を考えていた。
「撤退」を決意した後、潔くUタ-ン、来た道を帰ったつもりだったが、 何度となく道を失った。
刻一刻と辺りは闇に包まれる。
相変わらず雨は冷たく、 ヤブは体の自由を奪う。 一体、何度転んだ事だろう。七転八倒とはこの事だ。
幕営適地までの1時間がとてつもなく遠く長く感じた。 記憶の中には気持ちが急速に萎えていく自分の姿があった。
倒木に乗っかり、道を探してはヤブに体ごと突っ込む。
そういえば、休憩とってないなあ。思わずしゃがみこんでしまった。
そんな時、幼い息子が最近憶えた言葉が闇にこだました。
「ブ-ブ」「おいしぃ」「だっこ」・・・。
さあて、もうひとふんばり、がんばんべ。
そこから幕営地までは20分足らずだった。
あの声は私の気を奮わせる、まさに天の声であった。
うっすら雪化粧の登山道雪化粧の山道をゆっくり来た通りに進む。
幕営地から朝日岳への道は細々ながら、踏み跡がある。
昨日を思えば、安心に足りる細々さである。

朝日岳の登山道に出た。まるで銀座大通りにでも出たような気分。 ここから約3時間で駐車場だ。
雪ちらつく中、元気に闊歩。なんだかいい気分。半径5キロ内にはおそらく 、だぁ-れもいないのだ。
13:00には駐車場に無事到着。
いつもならば、「さあ、温泉、温泉」と思う所だったが、この度は イソイソと帰り支度。この分なら19:00くらいには家に着くかな?
息子の大好きなシュ-クリ-ムでもお土産に買って帰ろう。
私にとって、昨日の”天の声”は命の恩人と言っても過言ではないはずだ。
そして一緒にお風呂に入ろう。
これぞとっておきの「温泉」になるはずだ。
sak
