2025/8/4-5 東北・葛根田川北ノ又沢~大白森

行きたい山リスト
琴線に触れる場所は日々増えていく
季節ごとに山、沢、岩、雪、氷
それはもう、取り留めもなく増えていく
この「行きたい山リスト」をまとめ始めた当初からリストアップされていたのが、葛根田川だ
壮大かつ癒しの大渓谷を詰め上がれば、静かに草原が待っている
このシチュエーションに震えないわけがない
今日まで実現に至らなかったのは、その遠さにある
とかく一人なら南会津や奥利根、越後を選んでしまう
7月の沢泊計画は悪天で見送った
それを晴らすために用意した2日間
幸運にもyukさんが参加表明してくれた
行先を選定するにあたっては、谷川や越後の沢も候補に入れパートナーの意向を確認した
しかし、2人なら東北遠征もアリなのではないか
その思いが明らかに葛根田川へと導くような候補選択であったことは薄々感じ取られていたのではないかと思う
前夜、車窓に流れゆく杜の都の街灯り
一路、北を目指す
2025/8/4-5 東北・葛根田川北ノ又沢~大白森

葛根田地熱発電所を通り抜け、林道を行く
林道とはいっても、藪に埋もれ踏み後がついている程度
大きくヘアピンカーブとなる場所から葛根田川に向けて藪へと入る


さすが川というだけあって川幅も広く開放的な森の流れだ
しばらくは河原歩きに興ずるが支沢に滑らかな滝を見て唸り、淵を流れる優美な水面に見惚れる
懸念したアブは先頭を行くsakにまとわりつくが、後ろのyukさんにはあまり集ってないみたい
幸いあまり刺されることもなく、気にはならなかった



そして、お函
入口の瀞でひと泳ぎしたら流れの水際を進む
ただただ、流れを遡る
それだけの事なのになぜ惹きつけられるのか


ゆったりとした流れ
木漏れ日がキラキラと輝く水面
足を出すたび、溢れる潤い
立ち止まれば谷の風が体を通り抜けていく
沼ノ沢出合の滝が見えてくると、そこにいたのは色艶のいいしなやかな黒い体毛をまとった動物
ツキノワグマだった
距離で30mくらいだろうか
思わず「クマだ!」と声を上げてしまい、クマも驚いたようだった
こちらを一瞥して沼ノ沢の滝を駆けのぼって行った
しばらく待機し、ホイッスルを鳴らしながら進む

葛根田大滝
下段を越え、2段目の直瀑は堂々と水を落とす
少し戻って左岸から巻きあがる

流れの透明度がくすんできたと思うと、滝ノ又沢出合
滝ノ又沢からの流入が白濁した流れが流入している
温泉でもあるのかな?
この出合付近は開けた場所で遡行者の善き幕場となっている
しかし、今日はこの先930辺りで幕の計画
先を急ぐ

葛根田川は北ノ又沢と名を変え、水量も落ち着く
左俣を見送り15m滝は手前の右岸尾根から巻き上がる
少し巻き上がりすぎたようで、立ち木を支点に懸垂下降し、沢床に復帰
降りついたのは、遡行図にある5m滝の上流だった
予定していた930辺りの左岸台地に居所を定めて、あとは自由時間を楽しむ
とはいえ、やることは多い
すべては今宵の充実した生活のため、yukさんと分担して膳の準備

普段にも増して盃は進み、食事までたどり着かずに満腹
沢の夕餉はついつい豪勢になってしまう
薪をくべながら舟を漕ぐ
すっかり酔いが回って、傍らで横になる
明るいうちからこうして酔い潰れる
普段は今頃何してるんだっけ
などと、つまらないことを考えてしまう
空に木の葉のシルエット
薪の燃え盛る匂い
自由を詠う紅蓮華
絶え間なく流れ続ける水音
そうして夜は更けていく

明けて起床予定は4時だった
だったのだが、その前からポツリポツリと雨が落ちてくる
2日目、11時頃からの降雨と予想していた
しかし、これほど早く落ち始めるとは
暗澹たる思いでyukさんに声をかけ、起床時間を早める
手早くラーメンをすすってテントを畳むころには本降りになってきた
沢も幾分水位が上がり、濁り始めている
停滞しての減水待ちも過ったが、出来るだけ上流に行っておきたい
予定より30分早めの出発

それでもしばらくは、遡行に困難は感じなかった
ナメ床を過ぎ、右岸に20mナメ滝を見る
その先から、発雷とともに雨量が増した

雷鳴轟く中、10m前後の滝を幾つか越えると源頭の様相
しかし源頭の雰囲気の中、流れは濁流となり足が掬われる
幸い藪に逃げることは容易だったのが救いだ、
出発が計画通りとしたならば、どうすることもできなかったかもしれない

畏れを忘れてはならない
これが自然だ
凪ばかりではない
荒れ狂う姿もまた、山なのだ
それでもそこに嘘はない
だからこそ、美しい

大白森までは1時間ほどの藪漕ぎとなった
そのころには雷雨も収まり、霧が立ち込めていた
山上湿原を歩く
最高のコンディションではないけれど
この先にだって不安はあるけれど
ここまで来たからこそ感じる風の冷たさがある
時折強く吹く風に、教えられたような気がした

大白森の一角を横断して藪に入る
最初に出合う沢筋を下る
幾分水量は多いが、気になるほどではなく軽快に高度を下げる
これならば、明通沢下降も可能ではないかという期待はあった

丸い岩の先に真っ白な岩盤の流れ
そして支流を合わせると濁り波立つ流れとなる
全く歩けないほどのものではなかったが、明通沢までは標高差で130m程は下らねばならない
下流であればあるほど、水量は増えるだろう
しかも懸垂下降を要する滝場が続くらしい
得てして都合のいい期待は裏切られる
ならば選択肢は2つ
減水を待つか、藪を行くか
予め2日目の雨を予想してエスケープルートの想定をしていた
明通沢右岸のなだらかな尾根の下降もその一つ
もちろん、実際にここを行くとは思っていなかったのだが致し方ない
ここからは「夏のヤブコギ祭」だ
白い岩盤をひと登りで藪に入る
そこからは登り気味に藪を漕ぐ
根曲がりの密度が濃いので、トラバースが容易ではない
逆目を手掛かりに登る方がまだ楽だった
しばらくは登り気味に高度を稼いで、小尾根を越えたら下る
そうして小さな沢筋に出る

ここは岩盤が発達した流れで程よい傾斜のナメを時に懸垂下降を交えて下る
なかなか楽しい、名もなきナメ沢だった
明通沢まであとわずかとなったところで、右岸のなだらかな尾根に乗る
なだらかな、とはいえ藪は濃い
藪を漕ぐ
方向を見定め、目指す大樹を選んでまた藪を漕ぐ
そんなことの繰り返し
思い通りになんておこがましい
せめて眼前のことに、すべてを注ぎ込むだけだ
こんな時こそ、弱い自分と向き合える
そうして生への意志を地形図に牽くのだ


林道の橋へ続く踏み後に出る
明通沢はすでに減水していたが、徒労感はなかった
今日の奮闘は、明日の自分を後押ししてくれる
だからこそ、何処を行くのか自分で選ぶ
そういう楽しさがある
これまで歩いた径の先に明日が続く
sak
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