ACC-J茨城 山岳会備忘録

山でのあれこれ、便りにのせて。 ただいま、ACC-J茨城では新しい山の仲間を募集中です

朝日連峰・荒川西俣沢

2026/9/5-7 朝日連峰・荒川西俣沢


秋雨前線の影響で目指していた場所の気象条件は良くなかった
絶望的というほどではない
それでも個人の想いを果たすための拘りより、少しでも天候リスクの低い場所を選ぶ
ここは沢ヤとして冷静な判断をすべきだろう

転戦先に選んだのが朝日連峰、荒川西俣沢だった
同行のfjdさんの提案に惹かれるものがあったからだ

朝日連峰は私にとって初めて入る山域
活動範囲が広くない私にとって、新たなフィールドとなるのか
そういう期待もあった

2026/9/5

道の駅小国で夜を明かし、大石橋登山口まで入る
しばらく登山道を歩く
途中の吊り橋は踏板が足場板(約30cm)から丸太(約10cm)と次第に難度を増していく
しかも、手すりとなるワイヤーが左右高さが違ったりしてバランスがとりづらく、なかなかのアトラクションだ

え、これ渡るの?

ラスボスとして現れるのが大玉沢の吊り橋
踏板がワイヤー2本(約5cm)という漢を試される仕様

一瞬たじろぐが、荒川入渓はこれを渡らず手前から沢へ降りる
とはいえ帰りはあれを渡るのか、と心に楔を打ちこむように吊り橋を見上げる

荒川はしばらく、河原歩きに終始する
噂に違わぬ清冽な流れが心を洗う

大釜ノ滝は左岸をヘつり、瀞場は泳ぐ
五連の滝はなかなかの迫力
実に開豁で美しい沢歩きだ

左に毛無沢を見送って、曲滝はロープを出して右岸から小さく巻く
ズルズルのドロドロで悪いが、残置が幾つかあるのでそれを利用する
滝上に出ると滝の飛沫に虹がかかっていて、束の間の彩りが添えられていた
不意に訪れる、ご褒美が嬉しい

少し上流の幕営適地でひと休み
この先、幕営地が求められるかどうか不安はあったが二人なら最悪ごろ寝でも仕方あるまい

綾滝は左岸バンドから滝裏を潜って通過
青空の下で、これは堪らなく楽しい

少し泳いで、トイ状三段10mは最後の滝が登れないので右岸巻き
手がかりの少ないのっぺりとした岩を一段上がって草付きをトラバースする
ロープを出すが支点が取れない
トラバースなのでスリップには注意が必要だ

この先、廊下状の途中右岸から西俣沢が出合う
時間は昼前

この先へ進むという選択肢もあったが、今日はここまで
楽しみは明日に取っておこう、ということになった

西俣沢出合左の河原を整地して二人分の寝床を確保
あとは焚火の準備に勤しむ

この時間、いつもなら仕事場で何をしている頃だろう
そう思いながら仰ぐ青空はいつもより清々しかった

明日の高揚も不安も清々しさに洗われながら盃は進む
初日は登攀も少なかろうと持ち寄ったアテも充実していて、入山祝いと言ったところか

陽が沈めば谷間の岩を照らす焚火が心を穏やかにさせてくれる
空には星に紛れて人工衛星が西から東へいくつも通過していく
ただそれを一つ二つと数えながら夜空を眺める

 

同じ山を行く
目にするものも、感じる空気も、指先に伝わる感触も、たぶんそれほど違わない
それでも、見えるものは違う

山との向き合い方
何に惹かれ、
なぜ立ち止まり、
どこへ行くのか。

同じ場所に立っていても、だ


2026/9/6

5時起床、6時半発
雨は無いが、風が強く上部はガスがかかっている

西俣沢を行く

※以降は「yamakurumiさんの記録:朝日連峰荒川西俣沢」と滝の高さなど照合し記載する※

www.yamareco.com

 

出合の2段15m滝、1段目8mは左壁から中段で水流に入って詰める

2段目7mは水流右の細いルンゼをロープを出してfjdさんリードでいく
中段がヌメヌメなのでスタンスを吟味して乗り込み、細い灌木を掴んでいく
上部で被る岩を右から巻いて抜ける

4mは左、1m、2m、5mを左、難なく通過

6mはヘつって水流右を行こうと思ったが、水流近くがヌメヌメで断念して左巻き
1m、1mは難なく通過

2段15m
右から左上、水流の右壁を直上
ロープを出してfjdさんリード

4mトイ状は右
1.5m釜持ちは泳いでから水流左

正面に20m支沢を見て、本流は右に屈曲する

5m、5mは難なく通過

2段15mは1段目8mを右壁から左上し流れを渡る
2段目は左スラブを直上するが、一段上がるところに手がかりがない
安定したスタンス(岩の割れ目に草が生えたバンド)から左へ半身ずらして小さな岩の窪みを使う
足を上げたら、後はフリクション頼みで抜ける

3m左、7m左、8m左で通過

12mは右からヘつって滝上部は水流右を行く
ヌメリもあるが水流中のスタンスを使って半身シャワーで通過
fjdさんがフリーで抜けたので、お助けロープを出してもらう

3m滝は難なく通過

右岸から支流の40m多段滝が流入
右岸に幕場となり得るスペースはあるが落石跡が多数あり、適地とは言い難い
右岸から支流のスラブ60m滝が流入

沢の真ん中に大岩があり上部は平滑
ひと休みに丁度好い

6m斜瀑は難なく通過

沢は左に屈曲し、100m大滝が姿を現す
日本登山大系では100mと記載されているらしいが、それほどの高さは感じない

1段目は右岸の階段状から凹角を行く
中段バンドで水流跨いで左岸へ
2段目は左岸の乾いた凹角から左リッジへ乗り移って滝上へ

ここからしばらくゴーロが続く
5mゴーロ滝は気づかず通過

開放的な三俣は左俣へ
すぐに二俣となり、本流は左俣に見えるが、この先不安定なガレ場登りに終始するらしい
パートナーと相談して右俣へ行く
5m程の滝を登るが水が冷たい
「もしかすると雪渓があるかもね」などと言いながら行く

しかしすぐに沢が二分する
本筋は左沢、ガレて水流は無い

もしかするとインゼルで繋がっているのでは--
そんな興味もあって右の流れを詰めてみるが、流れの正体は湧き水で支尾根手前で行き詰まっていた
本筋(左沢)に戻って涸沢を詰める

次第にチョロチョロとした細い流れが復活して、行く手に7mスラブ滑滝
右岸の草付きをfjdさんが空身で上がって、荷揚げ

草に埋もれかけたガレの詰めを淡々と行くと稜線に乗る
時間は11時過ぎ
相変わらず風が強く視界は無いが、余裕をもって小屋まで行くことはできそうだ

風を避けながらひと休みして、あとは胸程の笹藪と灌木コギに終始
西朝日岳までは約3時間
fjdさんにはゆっくりだったかと思うが、慌てずに往なしながら行く
お付き合いいただき感謝です

西朝日岳からは登山道を行く
視界が無いのは残念だけど、この真っ白な世界に自分の色を乗せてみる
そんな山もいいではないか、と少し強がってみる
それでも一瞬ガスが晴れれば、そこには朝日の雄大な景観が広がり、嬌声を上げる

 

あとは淡々と歩を進め、金玉水で水分補給して大朝日小屋に投宿
小屋番さんに受付と協力金を支払って、あとは快適小屋ライフ

相変わらず、風は強いが小屋は一切揺るがない
しかも、今日は貸し切りの様相
足も伸ばし放題、カラッとした空間は心まで軽くなるようだ

あとはわずかな酒で小さな宴
月も望めない天気だけど、歓びなんてほんの些細なことで満たされるもの
この多幸感と言ったらない

これまで歩いて来た径
発見、教訓、そして山への眼差し

そうしたものが少しずつ重なっていく


2026/9/7

強風は未だ止まない
窓を風雨が叩く

あとは下山するだけ
そういう気楽さがあるものの、午後に向けて天候は悪化していくらしい

小屋番さんも早めに下山するとのこと
我々も手早く食事を済ませて下山開始

窓から伝わる風の音ほどには、荒れてはおらず歩行に支障はない
むしろ、大玉沢のあの吊り橋をどう渡ろうか、今からそれが気がかりだった

そして朝日連峰の主峰、大朝日岳
おそらくは雄大な景色なのであろう
しかし頂からの景観も、今は真っ白極まりない

いつかきっと――
そんな想いとともに、白霧に巻かれて歩く

それぞれの景色
見えているものなど、ほんの一部
見えないものを抱えたまま、山を行く

歩いた径は変わらない


sak

 

動画も

 

チンネ左稜線、剣尾根

2026.8.8~11 チンネ左稜線、剣尾根  メンバー:SGM,OKS


「チンネ」、アルパインクライマーならほとんどの人が知っている岩場、ドイツ語由来で、巨大な岩壁をもち、とがってやや独立した峰という意味。

私が学生の頃、山岳部の同僚に聞いて以来、頭の片隅にずっと残っているワード、しかもどんなルート集をみてもカラーで写真が載っている。このチンネというワードを聞いて以来、20年間なかなか行く機会を逸していた。

「剣尾根」は30代のころにGWに敗退して以来、3回目の挑戦。初めて行ったとき、取付きであるR10の位置がわからず、末端から取り付き、大変な藪漕ぎの末、やっとの思いでコルCに到達したものの、時間切れとそこから見える核心の「門」に圧倒されて敗退。2回目の挑戦は、今年のGWであったが、天候不順に終わっていた。私は性格上、こだわりというものはないと思っていたが、どうも一度思うとなかなか諦められないらしい。最近は自分で自分のことをよくわかっていないと思うことがあったが、改めてそう思う。自分の実力を把握する、客観的にみることは重要、もっと正確に自分のことをわかるようにしたい。

今年の夏、挑戦の機会が訪れた。パートナーであるOKSさんにお声をかけさせていただいたところ、すぐに了承していただいた。有難かった。

最近は、ユーチューブの映像が多く出ておりイメージアップには事欠かない。見すぎても楽しみが半減するので、あまり見ないことにした。

8月7日(金)移動(道の駅 常総~扇沢)

OKSさんと道の駅で待ち合わせ、すぐに扇沢へ向かう。

帰省ラッシュを予期していたが問題なさそうだ。最近、私は、夜の運転をしているとすぐに眠くなり途中のSAで仮眠することが多かったが、交代で運転し扇沢に到着。一番下の市営の無料駐車場に到着すると、すでにほとんど満車だったが数台の空きスペースに無事駐車。仮眠の準備を進める。今回は2人分のスペースを確保し仮眠するのは初めての試みであったが、荷物を外に出すことで何とかスペースを確保した。

目を閉じても、慣れない環境、出入りする車の音、人の声でなかなか眠れない。2時過ぎ、車の屋根をたたく雨の音で起きる。初めは雨の音であることがよくわからなかった。荷物が心配になって確認すると、シートのおかげで少しの濡れで済んでいるものの、雨はさらに降りそうだったのでシートをかけなおして再び仮眠。

翌朝、起きるとかなり雨が降ったようで、大きな水たまりができている。なんとか荷物は水没を免れたが、今後改善の必要がありそうだ。天候があまり安定せず、今回も天候不順か・・・とモチベーションが少し下がったが、天気が悪くてもなんとか次につながる山行にしようと思いなおす。


8月8日(土)移動(扇沢(7:30)~室堂(8:50)~剣
御前(11:00)~熊の岩(16:30)

始発が7時半で、チケット販売が6時50分。1時間前の5時50分頃に並んだが既に30~40人くらい並んでいる。

なんとか始発に乗ることができ、室堂をめざす。OKSさんには申し訳なかったが、黒部ダムなどの観光はあまりせずに先を急ぐ。

室堂に到着すると、剣岳が見えた。室堂に来るのは何年振りか。やはり剣岳は迫力がある。みくりが池などの観光はほとんどせずに先を急ぐ。午後から雷雨の予報だった。剣御前までの急登に苦しみながら剣沢キャンプ場に到着。学生時代は毎年来ていたので懐かしかった。感傷に浸る間もなく、午前中であるのにすでに視界不良のうえ雷が鳴り始める。そのうえ、ポツポツと雨が降り始める。明日以降、少しずつ天候は回復傾向であったので、なんとか熊の岩までは到着したい。雷雨に打たれることを覚悟で前進を継続。

剣沢雪渓を下降していると、ついに雨が本降りになり、土砂降りになった。みるみるうちに、周辺の岩場は滝にかわる。急いで雨具を着て周辺を確認したが沢登のようになっている。雷の音も大きくなってきている。しかし、すぐ近くではなかったことと谷間であったことから、そのまま進んだ。

途中、蛙岩を通過したが、雪の少なさに驚いた。学生の時は蛙岩まであった雪渓が遥か下になっている。ここの十数年で雪渓は相当に減少したことがわかる。雪渓も長次郎雪渓の出会付近でズタズタにクラックが走っており、左岸に道ができている。

長次郎雪渓に入ると、小降りになった。出会の付近は雪が無く、右岸にのる。一定のペースを心掛けるも、露営装備を背負っての雪渓登りはしんどい。上から、学生らしき集団が下りてきた。偵察にいったものの大雨で引き返してきたとのこと。お互い情報交換して別れる。

八つ峰の1・2峰中間ルンゼを過ぎた付近から雪渓を離れ、左岸のスラブに移る。アイゼンの着脱が忙しい。2時間くらい登ると、何とか熊の岩に到着。我々以外は誰もいない。岩と雪に囲まれた最高の場所だ。急いでテントを設営し食事をとる。



明日の天気予報の情報をあまりつかめないまま、予定を検討する。①天候はよくはないものの回復傾向であるが、チンネを登れるかは行ってみないと判断できないこと②三の窓は水がとれるかわからないこと③熊の岩以降は、スピードが大切だが今の装備ではなかなか速度があがらないこと

以上のことから、明日はアタック装備でチンネ登攀とした。

夜、寝て間もなく土砂降りのうえ、雷となった。落石等の危険は比較的少ないのでいろいろ不安に思ってもしょうがないから諦めて寝る。この時点では、ほぼチンネの登攀は難しいと思っていた。

8月9日(日)チンネ登攀(熊の岩(3:30)~池ノ谷乗越(4:50)~三の窓(5:50)~チンネ(6:50~11:50)~池ノ谷乗越~熊の岩(15:30)

2時起床、ひどい雨だったなと思いながら起きると、自分の寝床の周りが2~3センチ程度、水没している。クロスオーバードームのテントは軽いが、雨には弱い。わかってはいたものの現実を目の当たりにする。OKSさんが洗車用のセームタオルで排水してくれた。周辺をみると雨は降っておらず、薄曇りのなか八つ峰の間に月が出ている。風もない。「ここまできたらとりあえず取り付きまで行って判断しよう。」そう思い、出発する。

池ノ谷乗越で日の出を迎えた。同時にスマホの電波も入ったので、天気予報を確認する。悪くはならないものの霧、曇り予報だった。視界は比較的よく、剣尾根や麓まで見えていた。

 



池ノ谷ガリーを下降する。ガレ場そのものであり、歩いた足元から崩れる。降りれる場所からできるだけ石を落とさないように歩く。しばらく下降すると、残置ロープがチンネの頭から垂れている。比較的新しく、最近、残されたものだろうか。2本垂れており、1本目が回収できず、2本目を補助ロープで降りている感じだった。

さらに下降すると右側に残置ロープとペツルボルトがうってあった。1時間くらい下降すると三の窓に通じる踏み跡がありたどると三の窓に到着。複数のテント跡はあるが、やはり水はとれない。遥か下で水音が聞こえるが降りるのに20分以上かかりそうだった。(後日、OKSさんが聞いた話だと、雪渓の減少により雪のラインが下がり、水は下まで行かないと取れないとのこと。)チンネの岩場の全体が見える。大きな岩の塊で圧がすごい。周りが霧に包まれているからなおさらである。遠目にOKSさんとルートを確認して雪渓をトラバースし取り付きに到着。登攀準備し登攀開始。

1P:階段状であり雪渓のすぐ横であったため、途中からアンザイレン



2P:トップ
  いつものことであるが実質の1P目は緊張する。しかも結構、たっているのでなおさらだった。しょってる荷物も緊張のせいか重く感じる。とはいうものの、落ち着いてスタンスを探せば、結構あるので頑張って進む。25mくらい登るとテラスのようなものがあり、その先は左に回り込むようになっていることから、ピッチを切る。

3・4P:フォロー
OKSさんがトップで進む。岩が縦に走っているので、クラックに足先を入れながら進む。Ⅳ級といっても悪く感じる。

5P:トップ
ピナクルまで簡単な岩場を進む。いつの間にか、かなり高度を稼いでおり、緊張と高度の影響か少し登ると息が上がる。途中で整えつつ登る。

全体的にピンは古く、取れる場所でカムを使用。岩は花崗岩であるが剣特有のボロボロとやや脆い感じ。

6P~10P:特に問題なく、トップとフォローで交互に前進する。高度感がすごく、やや緊張しながら進む。9Pの途中で霧の間に見える核心の「鼻」が見えた。霧の間に見えたことと、ここから見る核心は両側が切れているうえ、ほぼ垂直に見える。「聞いた以上に難しそうだな。昔は人口登攀で登ったということもあり、ほんとにフリーで通過できるのか」不安になる。視界もなくなり、雷雨を心配しながらの登攀。このリッジ上で雷にあったら、落雷を受ける可能性はかなり高いだろう。

11P:いよいよ核心を登る。T5までくると、あの威圧感のあった「鼻」は短く、傾斜がかなり寝ているように感じる。「これならなんとか行けるかも」と思いなおし取り付いた。登ってみると左側は、はるか下まで切れている。落ち着いて探せば、ホールドスタンスともに豊富で、支点も多いことから比較的安心して登ることができた。ただ、始めの支点でギアを使用しすぎると、後のほうで足りなくなるので注意。核心は左に踏み込む部分とその先の少しかぶっている部分がやや緊張した。

 



12P~終了点:核心を超えてからは、高度感のあるピッチが続くもののやさしい。途中のピナクルでお決まりの写真をとり、終了点に到着。少し時間はかかったものの、心配していた雷雨もなく、登攀することができた。結局、我々以外、登攀者はいなかった。

終了点からは、ハイマツの灌木を利用した支点と1回目の懸垂終了点からやや左に進んだ場所にある支点を利用し池ノ谷ガリーに到着。そこから登り返し、池ノ谷乗越から熊の岩まで帰った。池ノ谷乗越でギア類はデポ、明日の剣尾根の登攀に備える。熊の岩に行くと、テントが6張りくらいに増えていた。

テント場でOKSさんと握手し登攀終了を祝う。10年以上、想っていたルートを登ることができ、とてもうれしかった。各ルート集に「日本を代表するアルパインルート」とある通り、快適な岩場であった一方、久しぶりの剣岳で若干ビビりながらのクライミングとなった。

8月10日(月)剣尾根(熊の岩~池ノ谷乗越~R10(7:30)~剣尾根~ドームの頭(15:30)~長次郎の頭(18:20)~ビバーク)

2時起床、満点の星空で好天が期待できる。3時出発、ギアが無いせいか池ノ谷乗越まで1時間かからず到着、淡々と池ノ谷ガリーを下降、三の窓からさらに下降を継続すると、雪渓が現れると同時に池ノ谷ガリーよりもさらに悪いガレ場となる。

 



雪渓に乗り移る部分でハーネス装着、雪渓に乗り移り歩き始めた直後、地響きとともにドーンと大きな音に驚かされる。地震かと思ったが、どうも近くで雪渓が崩れた音の用だった。音の大きさに肝を冷やしつつ、R10まで下降する。

途中で、R4が見えた。相変わらず威圧感はあるが、弱点があることがよくわかる。


さらにしばらく雪渓を下りR10に到着、ルンゼ沿いに詰められそうだ。

R10をつめる。ガレ場というか、ガレ場と傾斜のある草付き。下部は問題ないが、最後は灌木をつかんで、バランスでなんとか体を持ち上げる。

 



尾根に出ると、30センチ無い幅の尾根になっていて、反対側は急峻に切れている。コルEに到着。技術的には難しくないものの、少しの滑落が致命的になる部分が多く、慎重に登る。反対斜面に1張だけのスペースがあった。しばらく木登り状態でハイマツの藪漕ぎが続く。踏み跡は全般的に不明瞭で少しでも外れると、明らかに難しく、危険な場所に出る。しばらくはルートを外さないことをよく注意して進む。基本的にリッジ沿いに進む。2時間くらい気の抜けない藪漕ぎが続いた後、コルDに到着。ロープを出してクライミングシューズに履き替える。簡単な分、ピンはほとんどなく、高度感もあるため必要以上に緊張する。リッジ上に出ると、踏み跡があり慎重に進む。木登りが無くなる分、さらに高度感が増して、細い尾根を進む。核心の門とドームが見える。何度見ても日本離れした岩で、威圧感をまたしても強く感じる。20代のころは、あまり威圧感を感じなかったが40代後半になると気のせいか、昔よりも感じるようになった感覚になる。

 



コルCに到着。これから、登る1つ目の核心の岩壁がよく見える。ほぼ垂壁でルートガイド上はⅣ級A1となっているが、最近の記録をみるとフリーで抜ける人もいるらしい。恥ずかしながら、荷物をフォローのOKSさんに持ってもらい登攀開始。黒くぼろいスリングが垂れており、恐る恐る体重をかけながら進む。ピンは多いが、古いのでよく確認が必要。30分以上かけて通過、テラスでピッチを切る。OKSさんを迎える。天気は良く、小窓尾根や早月尾根がよく見える。早月尾根を歩いている人たちもよく見える。後続のパーティが来る。2人組で熊の岩で隣の方のようだ。

 



時間も押していることから、どんどん進む。いよいよ憧れの門の登攀になる。左上するクラックを進む。出だしがほぼ垂直なうえに、ピンが少ない。クラックにカムを決めて登る。冷静に見るとガバが少し上にあったので、つかんで登る。少し傾斜が緩くなり、クラックを楽しみながらあとは登ることができるが、相変わらず高度感がすさまじい。クラックが終わったところでピッチを切ってOKSさんを迎える。




門の登攀は実質2Pで終了、ドームの頭に出ると、剣尾根の上半の全体が見える。剣尾根の頭を含んでまだまだ先があり時間がかかりそうだ。少し休憩ののちコルBに降りようとしたが、高さはないものの一部崩壊していることから懸垂下降、上半部の登攀を開始する。ここから2~3時間、夜間行動を覚悟の上の登攀だった。コルBからは、難しくはないものの緊張を強いられる登攀が続く。ピンが無く、難しくないが絶対に落ちれないというものだ。

2P目、OKSさんがトップで行く。明らかにⅣ級以上ある部分だが、果敢に進んでくれた。コルA以降は簡単なリッジが続き、巻き道を行く。長次郎の頭に出ると同時に夕暮れとなりヘッドランプを点灯させた。

 



ここから池ノ谷乗越までは1時間以上かかるため、長次郎雪渓の左俣をそのまま下ることにする。降り始めは、なんとか全体が見えたもののすぐに真っ暗になる。雪渓の斜度はかなり急で滑落は許されない。20分くらい下ると下部が崖になっており容易には降りられないように見えた。そもそも下降ルートをよく調べないまま、降り始めた自分の判断が良くなかったと思い、OKSさんと相談し、元の稜線に戻ることにした。暗闇では当然ながら昼間と感覚が全く違う。スマホの位置情報を頼りに、元の位置に戻り池ノ谷乗越へ向けて稜線を進み始めた。30分程度進んだのち、ルートがよくわからなくなり、21時をまわったことからビバークを決定、OKSさんが持っていた簡易ツエルトに2人で包まり、ビバーク体制に入った。夏ではあるが気温が10度以下で寒く感じる。ただ星空はすごい。稜線で遮るものもないことからプラネタリウムのように見える。冬季でもないことから心に少し余裕を持ちながら夜明けを待つ。

8月11日(火)下山(稜線~熊の岩~室堂~扇沢)

4時過ぎ、ライチョウの鳴き声がした。すると間もなく、山頂方向からホラ貝を吹く音がして目を覚ます。行動食と少しの水を飲んで下降を再開。昨日、迷った稜線が何事もなく進むことができる。改めて闇夜の恐ろしさを痛感。慎重に3級程度の岩場をクライムダウンして池ノ谷乗越に到着、雪渓を下降し熊の岩に到着した。



学生らしき集団がⅥ峰でクライミングをしている。10名以上の大集団だ。台風が接近していること及び最終バスが16:30分であることから先を急ぐ。気温が高く、疲れが出てスピードが出ない。剣沢小屋で友人からもらったチケットでコーラを一気飲みした。カフェインと糖分で回復、なんとか16時に室堂に到着。周囲がものすごいペースで下降する中、一定のペースを刻んで下山し、何とか到着。久しぶりの4日間山行だったことからもう少し山にいてもよい気がしたが、台風が接近しているので長居は無用。バスを乗り継ぎ、扇沢へ到着。

久しぶりに剣岳に入山できうれしかった。天候が不安定にもかかわらずほぼ計画通りに登れたこともうれしかった。

岩と雪の殿堂、その世界にどっぷりとつかることのできた4日間でした。

OKSさん、山頂を踏むことができずすいません・・・


OKSさん感想 

台風が10個発生した8月は60年ぶりとのこと。振り返ればここしかないというタイミングでリーダーSGMさん20年来の宿願に立ち会うことが出来たのは僥倖であった。

私は飽きっぽく目標設定が苦手である。それゆえ己の好きなことを知っていて根気よく目標に向けて歩める人を尊敬する。誤解を恐れずに言えば私は山好きではない。山好きを推す人であろう。

リーダーの一歩一歩が弛みなく、されど急くことも無い。息は一定で休止は少なく気づけば早い。フォローとしてこれに勝る安心はない。ただの推し活オヤジがチンネと剣尾根を登れた唯一にして最大の理由である。ヘトヘトではあったが。

今回の山行の反省から目標設定をするなら、雪渓からガレ、ストックからピッケル、アイゼン脱着、登山靴からフラットソール、コンテからスタカット、などといった状況に応じた所作、ギア、システムの変更を早く正確に行うこと。これによりパーティーの行動時間を短縮し、危険地帯から速やかに脱する邪魔をしないこと、につきる。

よく名を聞く山に行きたい、というのはACCJの諸先輩に叶えて頂いた。結句、尊敬できる人と登れるのならどこでもよい。ただしウイスキーで少々お付き合いいただければ、ということになる。普段お酒を嗜まないSGMさん、ご相伴ありがとうございました。熊の岩での氷雪入り水割りは旨かった・・・

八ヶ岳・大同心正面雲稜ルート

2026/8/9 八ヶ岳・大同心正面雲稜ルート
 
ロープをいつもの場所に掛ける
なんてことのない山行後の荷物整理
 
けれど今日は掛けたロープをしばらくの間、眺めた
あの時、私は何を思っていたのだろうか
 

 

2026/8/9 八ヶ岳・大同心正面雲稜ルート
 
前夜、小淵沢で仮眠を済ませて美濃戸へ
isiさんの車のおかげで時間的にも心理的にも大変余裕がある
それがありがたかった
 
今日の天気は午後から下り坂
午前勝負でここまで来た
北沢を赤岳鉱泉にむけて急ぐ

世間はもうすでにお盆休みの期間中
赤岳鉱泉も大変な賑わいだった
身支度をして、大同心稜を行く
大同心に近づくにつれ、あちこちからコールが聞こえる

大同心正面には2パーティ
ゆったりと身支度をしながら、その様子を見物していた

ほどなくクライムオン
慎重にロープを延ばす
 
そして核心部
ハング部を左へ弱点を突いたつもりが、ルートを外していた
 
支点が3mほど右に見える
このまま上がっても、支点が取れそうになかった
そして、態勢の立て直しが腕力頼りとなってしまう
そこから右へトラバース、と動き始めたときだった
 
気づけば、空と地面が逆さまだった
こんなに派手に落ちたのは初めてだった
 
まず手を動かした
次に足
そして、首筋を触り首を左右に振る
 
痛みは無い
 
心配して「替わりましょうか」と言ってくれたパートナーに
「すいません、なんとか行ってみます」と返答した

 
申し訳なかった
情けなかった
時間を巻き戻したいと思った
けれど、そこで立ち止まっているわけにはいかなかった
 
どんな手を使ってでも登るしかない
それだけ考えた
 

 
2ピッチ:フォロー
正面フェースから右へ凹角を行く
凹角がスタンス乏しい
スメアリングが効くので思い切り乗り込む
 
核心での出来事がまだ手先の感触として残っている
それでも、上へ上へと手が伸びた

3ピッチ:リード
草付き交じりのフェース状
25m程で先行が見えたので短いながらもピナクルで切る

4ピッチ:フォロー
フェースからバンドのトラバース
1カ所、岩が張り出していて、少しクライムダウン気味に通過する
このあたりは切れ落ちていて高度感を感じる

5ピッチ:フォロー
isiさんにリードを託す
フォローながら中段と上部が被り気味の場所があって、ここでも苦労した
1ピッチの奮闘で半ば力尽きていたからだ
 
きれいに登ることなど、もうどうでもよかった
 
手を掛ける
足を上げる
引きつける
掴めるものは掴む
なんとしてでも上へ行く
 
格好などつけていられなかった
ひどい登りだった
 
けれど――
それが、ひどく自分らしい気もした

雲が下がってきて、辺りは白霧に巻かれた
時間は昼過ぎ
大同心ノ頭でロープを解いていると、雷鳴が轟く

急いで身支度を整えて1ピッチ25mの懸垂下降
そこからは歩いて下山を急いだ

 
赤岳鉱泉で装備をまとめて、雷鳴の中を下山
時に雨も落ちたが、幸いそれほどの雨量ではなかった
 

 
美濃戸から車を走らせる
麓へと近づくにつれ、空は明るくなっていった
雲の切れ間から陽が差している
 
それなのに雨は強くなっていった
天気雨だった

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 
ロープをいつもの場所に掛ける
 
なんて格好の悪いクライミングだったのだろう
思い返すほどに、情けなくなる
しかし、あの日だけが特別だったと言い切れるのか
 
それを執念と言ったこともあった
経験と呼んだこともあった
気持ちの強さだと思ったこともある
 
けれど――
もしかすると、ただの美化だったのかもしれない
 
あの時、何を考えていたのか
そして何にショックを覚えたのか
 
ただ、
あの日、陽を浴びながら降っていた雨を思い出していた
 
 
sak
 
 
 
 
 
 
 

南アルプス・信濃俣河内

2026/7/26-28 南アルプス・信濃俣河内

沢屋、さわやかを目指す

沢屋にとって、最高の旅とは何か
清らかな流れ
滝を行く緊張
静かな森
月と酌み交わす、一献

そして最後に必要なのは――

 

信濃俣河内 -しなのまたごうち-

その名を聞いた時、まず浮かんだのは華やかな登攀や名峰の姿ではなかった
深い山の奥で静かに水を集め、誰に急かされることなく流れる沢
風に時を預ける、それに相応しい場所だと思った

前夜、夜駆けで畑薙ダム沼平へ
ハンドルを握るtkmさんに申し訳ないと思いつつsakは意識を失い、夢うつつ
沼平駐車場に車は20台ほど
何とか駐車することができて一安心
見上げれば星空が、深い

 

2026/7/26

初日の日程は少し余裕がある
充分な睡眠時間を確保して6時起き

畑薙ダムまで戻って右岸の林道を行く
崩落地手前から地図にない吊り橋を目指し、踏み跡を追って沢へ降りる
降りついた先は河原となっており、入渓も容易だった

しばらくは砂漠のような河原を行く
細やかな流れは消長を繰り返して、次第に太くなってくる
埋まった堰堤を越えた先の木陰で装備を装着
肩に食いこむザックが軽くなって、軽快となるのが嬉しい

そこからもしばらく河原を行く
支沢が落とす流れを見物したり、山深さに唸ったり
そしてなんといっても、透明度の高い流れは、愛でるだけで涼やかな気持ちになる
水を蹴る足も心なしか軽い
これを爽やかと言わずして、何を爽やかと言うのだろう

三俣を過ぎると第一ゴルジュ
ようやく沢登りらしくなってくる

第一ゴルジュは難所というほどではない
水線を楽しみ、時に巻く
胸まで浸かる流れも、暑さを思えば心地よかった

第一ゴルジュを抜けると、再度河原となる
砂利が積みあがってできた段丘は、この先の「大ガレ」によるものというのは後に知ることになる
時間は12時過ぎ、このあたりから幕場を探しながら遡行する

オリタチ沢出合手前で、程よい段丘と河原を見つけてここに腰を据えることにした
もちろん、今宵の宴を執り行うことも踏まえての場所選定だ

乾いた薪はたちまち炎を上げる
焚火の匂いがあたりに立ち込める

程よく酔い、食せば眠気を誘う
微睡みの中、熾火が爆ぜる
その様子に驚いて顔を上げると、葉陰にのぞく月

月夜の森に佇む
心と影の境界線に立ち、静かに滲む耳鳴りを感じる

2026/7/27

翌朝は5時起床
手早く朝食を済ませて、ゆっくりと撤収準備

本日最初の滝を慎重に登って体を慣らす
右岸に小屋を見る
おそらくは山仕事の痕跡だろう
しかし、生活物資が散乱していて少し複雑な気持ちになった

この先も小滝を水線沿いに行くが、どれも容易
第2ゴルジュは中盤の流れで少し泳ぐ
最後ののっぺりした岩を乗り越すときに流心に流されそうになるが、何とか持ちこたえる

ゴルジュも佳境を迎える
薄暗い峡谷に差し込む一筋の光
まるで、心を照らすかのような光景
光に導かれるような心地よさがあった

出口の核心滝は右岸の残置スリングを頼る
2本目のスリングの先に小さなこぶ岩があってこれを手掛かりに乗り越える
ここで難所は終わり
心も軽くなって、会話も弾む

 

途中、癒しの区間を設けてそれぞれに自然を堪能する
さすがにここまで来ると山の恵みの深さを実感する

ここからは沢の流れも細くなって小滝を行くもよし、右岸左岸の踏み跡を行くも良し
流れにこだわらずに先を急ぐ

途中の左岸に極上の幕場があって、もはやこれは誘いに乗らないのは失礼なのではないかと思うほどであった
時間は13時半
誘惑を振り切り、目指すは源流の三俣
15時を目安に遡行を続けた

 

途中、壮大な大ガレを仰ぎ見る
これほどの大崩れなら、中流部に小高い砂利の段丘が形成された理由も合点がいく

 

最後の9m滝を小さく巻いたらあとは源流の様相
三俣を少し上がった川岸を整地して幕とした

 

今宵の宴も盛大にと言いたいところであったが、ほろ酔い加減となったころからの雷雨
幸い下拵えはできていので、後はテントに入って揚げ物に興じる

山中で食べる揚げ物は格別だった
どれだけ山奥へ入っても、人は最後まで食への執念を捨てられないらしい
生きることを楽しむ山、そういう山旅も良い

雷雨が収まり、改めて宴を盛り上げようとしたものの、再度雨が落ちてくる
酒の残りもなくなったことを理由に早めの就寝とする
ラジオの天気予報は明日昼から雷雨予報を告げていたため、早めに出立することとして床に就いた

2026/7/28

4時起床
昨夜は床に就いた後も雨は断続的に降っていた
懸念すべきは水嵩の増加だが、ここまで上流にきていれば、それほど気になるものではなかった
しかし、辺りは霧に包まれ風が強い

 

細い流れを遡る
途中流れを分けるが、概ね水量の多いほうへと進む

 

最後は草地窪になってきたので左岸の森に入る
あとは鞍部を目指してひたすら詰める

最後にハイマツ帯をヤブコギするが、それもわずかで明瞭な踏み跡に出る
風が強いので雨具を羽織って装備はつけたままで行く

仁田岳には立ち寄らず、希望峰~仁田池を経由して茶臼岳
このあたりは南アルプス縦走路の中でも景観に優れた場所らしいが、360度の大真っ白

山を始めたころは、稜線に流れる霧ですら感情が動いたものだった
あの高揚は今、どこに行ってしまったのか
もう一度あの頃の気持ちを取り戻せたなら、若さと共に失ったさわやかな自分にも出会えるのだろうか

 

茶臼小屋分岐で南アルプスの稜線に別れを告げ、あとはひたすら下山
途中、天候が回復して陽射しも出てきて暑くてげんなりする
それでもウソッコ小屋で名の由来に想いを馳せたり、ヤレヤレ峠で「ヤレヤレ」といいながら、気を紛らわせてようやく畑薙大吊橋

 

このあたりから予報通りに天気が荒れてきて、大吊り橋では時に足が止まった
決して吊り橋が苦手ではないのだが、上下運動に加えてローリングする動きと雨交じりの横風に声が出る
最後の最後にヒヤヒヤしたが、あとは舗装路を淡々と歩けばいい

信濃俣とは言うものの、ここは長野県でなく静岡県
静岡と言えば海、そんな印象を持っていた
しかしその奥に、これほど深い山がある

「静岡、スゲェ」

二人でそんなことを言いながら静岡市街へ向かう
目指したのはこの沢旅を締めくくるにふさわしい場所

三日間
水と岩、風に遊んで、泳ぎ、攀り、焚火を囲んだ
その中でいくつもの「さわやか」に触れ、その末に辿り着いた場所

それは静岡県民が愛する鉄板の上にあった
炭焼きの店「さわやか」

 

人は空腹には抗えない
沢屋とて、例外ではないのだ

この旅、最後の核心
それは岩でも滝でもなく、店員さんからの問い掛けだった

「ソースはいかがされますか?」

この沢旅で、私は幾度となく選択を積み重ねてきた
取るべきルート、突破の手段、幕場選定に空模様
そして残された選択は、あと一つ

 

私は少しだけ迷い、答えた

「ソースはオニオンで」


sak


⇓動画も

 

谷川岳幽ノ沢中央壁正面フェース

2026/7/19 谷川岳幽ノ沢中央壁正面フェース


sgmさんからメールが届いた
錫杖、左方カンテへのお誘いだった

お声がけいただいた光栄に感謝しつつも、日帰りとしては遠いかなと思った
世間は三連休なのだけど私的には単休、翌日は仕事だったからだ

近年の衰えに軟弱になることも多々あるものの、魅力的な山の誘いに「行かない」という選択肢は無い
そこは絶対だ

最も天候にも左右されるだろうからと、錫杖のほかに転戦候補として小川山と谷川を提案した
具体的には、小川山:レモンルート、そして谷川:幽の沢中央壁正面フェースの2ルート
あとは今山行リーダーのsgmさんに預けることにした

そしてその夜
「谷川をメインで計画させてください」との連絡が入った

私にとっても渡りに船だった
次に谷川でトライするならば、ココと定めていた
もちろん、信頼できるパートナーが得られなければ手が出ないルートだ

中央壁正面フェースは、改訂・日本の岩場(上)で「中央壁正面を登るオーソドックスなフリールート」と記されている
しかしネットに残る記録は、それとは違っていた。
「支点は少ない」
「ルートファインディングを要する」
「岩は脆い」
そういう言葉に心が動いた

提案した山行候補から幽ノ沢を選んだ理由をsgmさんに聞いた
ネットの記録を漁るうち「支点も少なく、脆くて痺れる登攀が続く~」という記録を見て、なんかこういうのやりたくなっちゃたんですよね、とのことだった
沈着な物言いの中に確かな熱があった

前々日
天気が悪く現地でも相当に雨が降ったようだった
sgmさんから「ご意見伺い」のメールと共に、それでも転戦せず「谷川で進めさせてほしい」という連絡があった

たしかに、条件は良くない
当日の天候だって怪しいものだ
それでもこのルートに惹かれている彼に、提案した私も呼応しなければ失礼だろう
私とて、まだ灯は消えていない

 


2026/7/19 谷川岳幽ノ沢中央壁正面フェース

前夜、19時に集合してベースプラザへ
生憎の小雨
嫌な天気だ

仮眠後、3時起床で3時半出発
幸い雨は上がっていたが、濃霧
湿度が高く空気中の水分量は飽和状態
ヘッドライトの灯りに霧が舞って、見通しが悪い上に息苦しさすら感じる

それでも歩を躊躇うことは無かった
幽ノ沢出合で装備を付けて沢伝いにアプローチ
すでに雪渓はないが、最初のナメ滝から沢床は湿っている
長い下山を意識して、アプローチシューズだったこともあり慎重に足場を選ぶ
このあたりは完全に沢登りのテクニック

やがて大滝手前のナメ床が最初の核心
数歩良くない場所にハーケンがありでロープを出して通過

 

大滝手前は左岸から右岸へ移って、大滝の水流左へ取り付く
もちろん、この時点でシューズはびしょ濡れだ

二俣から右俣を行く
これも完全なる沢登り

カールボーデンを目前に少し霧が晴れる
右俣リンネを中心に右にV字状岩壁、左に中央壁
トウフ岩が顕著に見える

カールボーデンを暫く行くとリッジ状となって傾斜が立ってくる
ここからロープを出す

1P:フォロー
リッジを直上
トウフ岩が真横より少し下に見える
トポとは少し様子が違うのだが、ネットの記録でもトポとの不整合を指摘するものも多く、まぁそいう言うことかなと自分を納得させる

2P:リード
左にトラバースして急な笹藪に入る
このまま左トラバースかと思ったが、笹藪を抜けたところが思いのほか立っていて悪そう
藪を頼りに少し上がってから左に抜けると古いハーケン3本の支点があり、そこでピッチ切り

ネットの記録では下部ピッチ終了点にぺツルハンガー2本あると記されていたので、本来のルートを外しているのかもしれないと思った
そして下を見ると、いかにも快適に登れそうなフェースが左上している

フォローを迎えしばし協議
選択肢は二つ
この支点から左上後トラバースして左リッジに繋げるか、一旦懸垂下降して下のフェースに乗り直して左リッジへ繋げるかだ

 

3P
sgmさんが左上してみるものの、しばらくで行き詰る
左リッジへのトラバースが濡れていて悪く、明らかにぺツル支点らしきがないことが確認できた
そのため一旦クライムダウンしてもらい、自己確保
sak先行で懸垂下降し、下に見えるフェースに乗り直す
しかしながら支点が見当たらず、ハーケンを打って#000のマイクロカムで補強し支点構築

4P(トポの2P目):リード
乾いたフェースを左上する
手足のホールドはあるが、支点がない
ようやくハーケンを見つけたと思ったら、その上にハンガーボルト2本を発見
これでルートに乗ったと一安心

 

5P:フォロー
上部に見えている帯状ハングを目指し、左に回り込んでから右上へ
帯状ハング手前にハンガー2点あり

 

6P:リード
全体観察すると、帯状ハングの左端に支点とカラビナが見える
しかし、苔が生えていてビショビショ
トポとの整合性もないので、ハングの中心バルジ状になっているところを目指す

今まで以上に支点もあるのでルートとしては間違いない
狙った登路はハングの切れ目となっていて、実際は5mほどの垂壁かと思う

しかしながら、とても脆い
確かめながら行く労力と、岩が剥がれないかという恐怖

核心手前で欲しい所にハーケンを見つける
ホッとしたのも束の間、確認するとあっけなく抜けた
この先、核心抜け口まで支点が見当たらない
パートナーには「落ちたらゴメン」とだけ伝えた

一手伸ばすたびに「頼むから、剥がれないでくれ」と呟いた。
難しい、のではない
岩に裏切られるのが怖いのだ

「願いは口に出せば、叶う」
そんな言葉を信じるしかなかった
とはいえハング抜け口で、恐怖に負け残置スリングを掴んだことは正直に白状しておこう

ここから本来は右上するのだろうと一旦は進んだものの、核心を越えてから支点が見つけられなかった
すでにそれなりのランナウトをしていて、ここで落ちたら核心の下まで落ちる
少し戻って左の藪に逃げ、岩場基部にあったリングボルトでピッチを切った
おそらく、こちらは「直登ルート」のものかと思う

この時点で12:20

7P:フォロー
ルートに戻るためにカンテをトラバースで乗越し、フェースを行く
なかなか渋いトラバースとなってしまって、パートナーに心中で詫びながら行く

途中、ボルト1点も出てきて中間支点としていた
本来、核心ピッチはここまで上がるのだろう

8P:リード
トポではここからしばらく凹状スラブを100m行くとある
なるほど、階段状でいかにもⅢ級ピッチ
しかし、支点は少なく見つけられたのはわずかに1点
これ以降、明確な終了点は見当たらずハーケンとカム、灌木で支点構築が必要だった

9P:フォロー
思いのほか時間がかかってビレイ解除のコール
凹状スラブが広がる辺りは進路が不明慮で方向を見定め難かったらしい

10P:リード
初めは容易に感じた凹状スラブも登るほどに傾斜を増して嫌らしくなる
正面に見えるハング手前を右リッジへ行くらしいが、リッジ手前が急傾斜に見えた
そのため、少し手前を右の藪尾根へと繋ぐが、支点が全くなくて緊張させられた
藪尾根には灌木があるのでこれで支点構築

11P:フォロー
藪尾根を右へ回り込んで隣の凹状を直上
岩が脆いようだったので、やはり10Pはハング下まで行くべきだったのだと思う

所々に「沢用語」で言う「ニラ」(ニラみたいな草)があってこれを利用していくのだけれど、sgmさんはこの扱いに苦労していた

12P:リード
岩草ミックスを直上して、笹藪手前を左の凹状へトラバース
凹状を直上し灌木で支点構築

 

13P:フォロー
岩草ミックスを直上
中央壁の頭、肩に出て終了、16:15

トポでは6P以降かなり端折られている
しかし支点は少なく所により脆い
決して侮ることのないよう注意したい


装備を整理し、ロープを解いて小休止

核心前後の脆さとその後のプアプロテクションは決して侮れない
これは同じ谷川においても、一ノ倉の人気ルートやV右と同列には扱うことはできない
というか「同列に扱うと危うい」のだろう
そこにあるのは泥臭さと執念だった

「なかなかでしたね」
「ですね」
それだけで充分だった

 

中央壁の頭まで少しの藪を漕ぐ
そこから30分ほどで堅炭尾根
この時点で17:20
想定していたとはいえ、やはりヘッデンのお世話になってしまうなぁと、ぼんやり考えていた

 

 

中芝新道は管理されずに藪に埋もれかけている
それでも尾根を行くあたりは踏み跡の痕跡が確認できた
尾根を左に二度分けた後は踏み跡はさらに不明慮になる

芝倉沢に降り立った時、すでに辺りは闇に沈んでいた
芝倉沢は概ね左岸を下る
とはいえ暗闇の中、滝場を巻くにもルートを見出すのには時間がかかった
そうして、時間を浪費した

国道291号線、芝倉沢出合まであと150mのところで滝場に出た
左岸大岩の下はかなりの高さがあって懸垂下降が必要だと思った
しかし、有効な支点は無い

また、もしここを懸垂下降で処理したとしてこの後にも滝場が出たなら詰んでしまう可能性もある
ヤマレコの足跡ログを見ると左岸を巻き下っている軌跡があった

ならば高巻きで下るしかないとチェーンスパイクを装着して巻きに入る
闇中をヘッデンでヤブコギするのは肉体的にというよりは精神的に消耗する
滝を落とす水音が遠くなったら懸垂下降で沢床に戻るのだが、課題は下降距離が50mで足りるかどうかだった

灌木に捨て縄をかけて懸垂下降
しばらく傾斜も緩いが、急に足元が無くなる

断崖絶壁

ヘッドランプの光量を最大にするが、下までは見通せない
底の見えない暗闇に懸垂下降をするのは大変不気味だ
一旦ロープを固定して、末端を小さくまとめて背後の闇中へ投げる

ロープの着地した音
ロープが下まで届いたかどうか確かめるチャンスはこれしかない

パシャっと草葉を叩く音
ひとまずは安堵したが、すべてを信用しきったわけではない
慎重に、ゆっくりと懸垂下降し地面にロープが着地している様子を見てようやく安堵した

この地点からわずかに沢を下ると滝場に出た
そしてその先に、崩壊しかけた国道が見える
滝下には大きな釜を抱いていて、飛び込むほかないかと憂慮した
しかし地形を観察するとここは右岸に渡って巻き下れそうだった

そして安全地帯
この時点で22時
谷川岳ロープウェイ駐車場には2時間かからず着くだろう
危うく、0泊2日の山行になるところだった

不思議と疲れは感じなかった
心は未だ緊張感の中にいたのかもしれない

本音で言えばあの息詰まる濃霧を歩き始めたとき、登り切れるとは思っていなかった
幽ノ沢を遡り、濡れた壁に取付いてからも撤退の二文字は何度もチラついた
それでも微かな灯は揺るがなかった

「なんかこういうのやりたくなっちゃたんですよ」
理由はそれだけで充分だった


sak


 

⇓動画も

 

釜無川水系 神宮川笹ノ沢

白砂を踏む


2026/7/12 神宮川笹ノ沢

 

白砂を踏む


この場所には青空が似合う
午後の光を浴びて広がる山波
吹き抜ける風が木々を揺らし、さわさわと山を駆けていく

「これはもう、癒し系と言っていいのではないかね」
そう言いながらも、滝の飛沫に打たれた午前の出来事はまだ記憶に新しい
それも今では心地よい余韻だった

おそらくは誰もが満たされていた
そういう沢旅だった

メンバーは6名
本来は谷川方面を検討していたのだが、天候予測により転進
より安定した天候を求めて神宮川流域に初入渓となった

石尊神社の駐車場に車を止めて林道を歩く
サントリー白州工場の裏を通って神宮川に沿っていく
やがて崩落による車止めを経て、林道終点
そびえる堰堤を仰ぎ見て、一つ手前の堰堤脇から笹ノ沢に分け入る

末広がりの滝を思い思いに登ってトイ状25mは右岸巻き
幾分、水量は多めだろうか

3段の滝は左岸も巻けるが、ロープをだして水線を行く
これは事前の打ち合わせ通り
fjdさんがリードを申し出てくれて、他メンバーはマイクロトラクション、最後にsakがロープアップで行く

1段目を登るときに飛沫を浴びるが、シャワークライミングとまではいかないので程よく気持ちいい
2段目は水流左の壁を上がって3段目のトイ状を両足のツッパリを交えて上がる
花崗岩は脆い部分も多いのだが、総じてフリクションに不安はなく思い切って行ける
とても痛快な部分だ

ここから先、しばらくは登れる滝が続く
沢床に広がる白砂と水光が眩い

夏の一日
思い思いに滝に取付く

取り付いて登れたら嬉しい
登れなくても、楽しい

fjdさんは次々と滝へ取り付き抜けていく
初顔合わせのskiさんは積極的にこの時を楽しんでいる
tkmさん、nksさん、skmさんも自然と笑顔になる

それぞれが夏を楽しんでいる。
白砂は、誰の足元にも変わらず広がっていた

上部で出てくる6mCSも水流中のクラックに挟まった石を持てれば上がることができた

 


その後に出てくる直瀑12mは左岸から入る沢の右岸から巻き、小尾根に出る
ピークを一つ越えたあとのコルから下降するが、踏み跡は明瞭だ

降り立った黒津沢出合からわずかでアレ沢出合
アレ沢に入れば、あとは流れを淡々と遡るだけ

 


流れも消えて、詰めで急勾配となるが明るいほうへ向かっていけば尾根に出る
ここで装備を整理して、水晶ナギへと向かう

 

水晶ナギはその特異な景観と見晴らしが素晴らしい
吹き抜ける風が木々を揺らし、さわさわと山を駆けていく
何より静かなのがいい

 

下山は雨乞山登山道を石尊神社へと下る

下山後も余韻は続いていた
白砂を流れていた水光

風呂上がりに選んだのは、もちろん山麓の工場でボトリングされたあの天然水だ
このラベルを見るたびに、きっと思い出す
白砂を流れていた夏の光を

sak

 

⇓動画も

 

小川山・屋根岩2峰 セレクション

2026/7/4 小川山・屋根岩2峰 セレクション 

 

小川山、廻り目平

朝の空気は瑞々しく、岩の向こうに空が抜けていた
その光景は私にとって眩しすぎる場所だった

岩の白さでも、空の青さでもない
そこに集う人たちはどこか軽やかで、自然で、この場所に溶け込んでいるようだった
私はいつも、それを外側から眺めていた

「眩しい」
そう言えば聞こえはいい
本当は、自分の足りなさから目を逸らしたかっただけなのだ

屋根岩2峰、セレクション
その響きが、胸を突いた

大日広場から屋根岩を目指す
分岐ボルダーで右に折れ、踏み跡を追う

緩いスラブの先にやや左に傾くクラックが見える
ここから「セレクション」が始まる

昨夜の雨の残滓はあった
それでも花崗岩は、裏切らなかった。

1P(リード⇒フォロー)
初めにsakが取り付く
クラック右にあるガバからレイバックで次の一手を出す
しかしクラック下部は左に傾いていて、どうにもバランスが悪い
途中で体を左へ入れ替えたいのだが、体を振れば剝がされる
僅か5m程なのだが、上部ガバがなかなかに遠い
ここで力尽くわけにもいかず、敢無くisiさんに交代

isiさんは左手をクラック左縁で耐えてからの足上げ、
右手ハンドジャムへと繋いで、事も無げに上部のガバへと繋ぐ
こちらの方が理にかなったムーブだろう

2P(リード)
ダイヤモンドスラブを一旦左に寄せてから右上する
雨に穿たれた小さな窪みや指に食いこむ岩の結晶を繋いで行く

残置支点が遠く、花崗岩のザラリとした手触りを感じながら「ここで落ちたら全身擦り傷だらけだろうな」
という想像が容易いため、心理的圧力は強い
それでも、フリクションが効くので大胆に行ける

3P(フォロー)
岩溝に入ってチョックストンをくぐる
その後はチムニーをバックアンドフットで登り、大テラスまで
立体的な登攀となって大変楽しいピッチだった

大テラスからは廻り目平が一望出来て解放感がある
駐車場の車も増えていて、辺りからクライマーの声が聞こえてくる

クライミングにおいてロープは二人を結ぶためだけにあるのではない
技術。
沈黙。
呼吸。
積み重ねてきた時間。
そのすべてを、静かに結んでいる

それは触れる岩とて同様だ
山は何も語らない
だからこそ、耳を澄ます

4P(リード)
大テラスから木登りで高度を上げるが、岩に乗り移るところで足があるものの手が少ない
それを嫌って立ち木を下り戻ってから、クラック下段へ足をねじ込む

クラックからフェースへ、そしてチムニーへ
途中フレークにカムを決めつつ、足元のスタンスを探す
スラブからコーナークラックを繋いで、立ち木が見えたときにようやくこのピッチの終わりを予感する

5P(フォロー)
この先はエスケープラインで抜けることもできる
話し合って、トラバースルートに進むことにした

この先はisiさんも未登だった
初見の私に付き合ってくれたのは、このリベンジという彼の宿願もあったからだ

カンテ状の岩を少し登って土と根っこの詰まったルンゼへ乗り越す
このルンゼを下ってハング下のスラブに乗り移るのだが、このあたりが濡れていて気持ち悪い
しかしながら、フリクションはまずまず効くので怖さはなかった

ハング下はL字部のクラックを繋いでトラバース
足元スラブはそのまま切れ落ちていて、高度感が抜群

手は下部クラックから始まり、中段、上段、そして最後はスラブのカチを拾っていく
「怖ぇー」を連発しながら、口元が笑っている
なんて言うのだろうね、この感覚は

6P(フォロー)
本来sakのリードピッチだが、協議の上isiさんにリードを託す
左ルートは下部凹角から中盤のワイドハンドが核心

緩い陽射しを受けながら、クラックに手を利かせる
腕や足のあちこちに擦り傷を作りながらも、痛みなど忘れ夢中になる瞬間

忘れていた感覚
いつしか、できない理由を探すようになっていた
だからこそ、この場所へ手を伸ばしてみたかった

終了点からは屋根岩の峰々が良く見える
隣の3峰に2パーティ
レモンルートとRCC神奈川ルートだろうか

ロープを解き、今日の登攀を語り合う
吹き抜ける風が、二人の頬を静かに醒ましていく

終了点にある懸垂支点から三峰方向へ50mの懸垂下降で森に届く
あとは踏み跡を下れば、取り付きに戻る
辺りでは2パーティが想い想いにクライミングを楽しんでいた


廻り目平を散策する

森を風が吹き抜ける
鳥の囀り
開放的な時の流れ
ふと、選ばなかった道を想う

行けなかった場所
手を伸ばさなかった壁
そして、人。
それもまた一つの選択だったのだろう

木漏れ日の中を歩く
樹幹の間から花崗岩の白さが覗いていた
遠くからクライマーのコールが一つ響く

景色が、少しだけ違って見えた


sak