ACC-J茨城 山岳会備忘録

山でのあれこれ、便りにのせて。 ただいま、ACC-J茨城では新しい山の仲間を募集中です

2026冬山備忘録

冬の出来事

午後の陽光
蒼氷も、やがて滴り輝きながら解けていく
そうして冬の終わりを予感する

この春、末子が社会人となり、私は家督を継ぐ
父に気遣いながらも、自活する気力があるのだからまだ大丈夫なのだろう
老いたのは父ばかりではなく、私とて同様だ

そして、君に病が見つかった
それがこの冬の出来事だった


2025/12/14
八ヶ岳南沢

今シーズン最初のアイスクライミング
nksさん、sgmさん、tkmさん、sakの4人

体の使い方、レスト体制のおさらい
そして、tkmさん待望のアイスクライミングデビュー
南沢大滝と小滝で登り込み
美濃戸まで車で乗り付けている安心感
皆、薄暗くなるまで登り込んだ

これまでの積み重ねを体が思い出してくる
tkmさんも楽しんでくれている

この冬はようやく目標に触れることができるのか
そんな予感をさせてくれる、好い日だった


2026/1/18
八ヶ岳広河原沢見晴らしルンゼ

どうやら、今年は広河原沢が良いみたい
ならばと、見晴らしルンゼを計画した

舟山十字路も盛況で何とか駐車場所を確保
広河原二俣も前日から訪れている面々のテントが散見
しかしながら左俣へ向かうのは我々のみ
皆、右俣へと向かっていく

入渓点で身繕いをしていると、1パーティやってきて左俣の大滝まで行くとのこと
そして終日、見晴らしルンゼは我々のみであった

左俣から見晴らしルンゼに入ると一から五まで滝がある
まずは日陰で氷結状態のいい二の滝をsak、nksさんでお互いリードとフォロー

次に四の滝
こちらは日向で眩しいくらい
反面、氷は溶け加減
小さいながらも傾斜のある2段目の滝を登って、懸垂で戻る

最後に五の滝はお互いフリーで抜けて、御小屋尾根へ
傾斜という意味では少し物足りなさを感じたものの、様々な滝を登り巡ることができる素晴らしい場所だ


2026/1/25
西上州・相沢奥壁大氷柱

当日4時集合
ちょっと早めの出発

相沢大氷柱は高矩があるので、一人登るのに時間を要する
出来るだけ早めに取付きたかった

結局は他パーティーとの協調も含めて一人1本だけだったが、皆満足の様子
nksさんは去年エイプリフールに来た時、相沢大氷柱を「登れる気がしない」と言っていたけどトップロープながらノーテンで抜けた
tkmさんも無事トップアウト
sgmさんは安定したクライム
他パーティーとのコミュケーションも取れて充実した一日となった


2026/2/1
西上州・仔犬殺しの滝

相沢登山口からさらに林道を進む
さすがにデリカは悪路走破性が高く、林道が土砂に埋まった場所まで入ることができた
ここから1時間ほどのアプローチ

仔犬殺しの滝を一段上がった所を起点として、トップロープ支点を右の立ち木に取れば50mロープで張れる
nksさん、tkmさんの3人、高回転率で登り込める
各々ルートを変えて4本ほど登り込む

 

加えてアックス振り方やレスト体制の確認
アイスクライミングができる場所とタイミングは限られている
時間が許す限り、無駄なく取り組むことができた


2026/2/8
足尾・松木沢無名ルンゼ

今日は行くべきかどうか悩んだ
関東地方に大雪警報が出たからだ

茨城からもアクセスが良く、前日の天気読みで雪が少なそうな足尾にした
しかしながら朝のラジオでは日光・足尾に大雪警報を発していた
それでも、結局は行くんですけどね

15センチほどの積雪をものともせず、tkmさんのデリカは走駆する
銅親水公園に着くと雪も上がる

すでに駐車場には数台の車
1パーティーは丁度出発するところ
そのほか、前日から入ったパーティーのテントがジャンダルムを望むあたりに張られていた

昨日ウメコバに行ったパーティーと情報交換
黒沢は数パーティー入っているらしい
駐車場で見かけた5人も黒沢へ向かう堰堤で準備中
ならばと夏小屋沢に向かうと順番待ちが3組

ルートというよりは傾斜に強い場所で登り込みたかったので無名ルンゼに向かう
さすがにマイナーなためか誰もいない

距離はそれほどではないが上部は立っていて、幅も狭い
足の置き場を吟味しながら立ちこむがリードではアックステンションを交えながらとなった

tkmさんは今までで一番難しかったらしい
それでも慣れてきたら、スタンスの少ない滝の左側をトップアウト
トップロープならこの傾斜も不安なく行ける
レベルアップを実感できる登りとなった


2026/2/14
日光・雲竜渓谷友不知

雲竜渓谷に行くのは少々躊躇があった

なぜか

そう、氷瀑観光で大勢のハイカーが訪れるからだ
地味でひと気のない場所を好む私の嗜好に合致はしないのだが、やはりアイスクライミングに取り組む上では避けては通れない場所だろう

 


2月の冷え込みが一段落し、最近は2月と思えないほど暖かい日が続いた
燕岩の氷柱は一部崩壊し、その残骸が転がっている
雲竜瀑を見物していつの日か登ることを夢見ながら、友不知ゴルジュ左岸へ

このエリアも上部は氷結しておらず、岩が露出
騙し騙し上に抜けて、あらかじめ見定めておいた傾斜のある場所にトップロープをかけて登り込む
nksさんも安定した登り
やはり、場数と情熱は成長の特効薬だ

午後の陽光
蒼氷も、やがて滴り輝きながら解けていく
そうして冬の終わりを予感する

すぐ治療が必要なわけではないのだから
そう言う君に不安はあったと思う
ただ何も言わずに私を送り出してくれた

目指す場所がある
過ぎ去る月日は、誰にとっても有限だ
もちろん、二人にとって残された月日は多くはないだろう
この冬はそれと向き合いたかった

 

2026/2/21
奥鬼怒・野門沢・伏龍鳳雛

鹿島槍に向けて、最後の調整として奥鬼怒北面を選んだ

 


激下りがあるにしろ、アプローチは1時間弱と至便
伏龍は峡谷を抜けた先に控える氷瀑
素晴らしいロケーションに見惚れる

sgmさんリードでnksさんとsakを引き上げる
50mロープで滝身左の灌木+スクリューで1ピッチ
2ピッチで残りの1段目と2段目を登る

下降は落ち口の右岸壁にある懸垂支点で20mくらい下るのだが、右岸の小高い台地に乗って立ち木でピッチを切る
そこからは50m下降で取付きに戻れた
記録では60mロープでの登下降記録が多かったので、少し心配していたがなんとか50mで対応できた

この立ち木を使ってロープを張って登り込む
トップロープの気軽さもあってそれぞれのルート取りで立っているところを行く
sakは途中で不意にアックスが外れてしまい、テンション
アックス引っ掛け登攀は、まだまだ要修行といったところか

鳳雛は緩傾斜ながら発達も良く、気持ちよく登れる

次週は鹿島槍
あとは天気が晴周期となることを願うのみだ


2026/2/27-2/28
鹿島槍ヶ岳・北壁主稜(中退)

結果から言えば、遠かった
目指す壁は霧に隠され、拝むこともできなかった
それでも手に届くところにある、そう思える実感

鹿島槍スキー場の駐車場から大谷原
そこから天狗尾根はオールラッセル
さすがに体力強度を要し、天狗ノ鼻に着くころ日暮れとなった

ここまでは、以前天狗尾根をトレースしたこともあり既知の範囲だ
高度を上げるに従い次第にガスが濃くなる
眼下に見えていた大町の街はいつしか消えた

水を作って簡素な食事
明日のタクティクスを確認し、3時起床で状況判断することとした
夜半から断続的に風がテントを揺らし、時折目を覚ました

3時、寝袋に潜りながらsgmさんに意志確認
この風で一時停滞で意見は一致
明るくなるのを待って、次なる策を練ることとした

朝食をとりながら、今後の対応を協議
依然風は強く、視界もない
疎らに降り落ちる雪は降雪か、舞雪か

幸運なことに電波が繋がり、天気予報を確認できた
今日は午後になってから晴れ
明日は冬型が強まり、今より強い風が吹くだろう

今日を停滞として明日勝負
と言いたいところだが、不安は残った

生きて山を成せるように
共に越えられるように
不安とどう向き合うのか

撤退にも価値はある
あとはタイミングの問題だ


-春-

庭に檸檬の苗木を植えた
「庭に植えるなら、檸檬がいい」
そう言ったのは君だった

苗木が実をつけるには数年かかるらしい
君のヤマは初夏に始まる
お互いの山を生きて成せるように

そして実った檸檬を二人で噛む
私が密かに課した数年後の目標だ


sak

 

↓動画も

 

足尾・松木沢、ウメコバ沢クライミング

2025/11/11-12 足尾松木沢クライミング


おじさんと少年と空


朝焼けに消える星空
輪郭を増す山波に新世界を見る

朝陽を背に歩き出す
これから始まる出来事が、青春だなんて思ってないけど
おじさんはオジサンらしく行けばいい

行く手に松木沢ジャンダルムが鎮座する
この光景はいつ見ても美しい

今回のメンバーはyukさん、oksさん、そしてsak
この山域に初めて入るという2人にルートの概要を伝えておく

oksさんは初めてのマルチピッチクライミング
まずはショートルートの右壁正面ルンゼ~天狗岩を登攀
その後は合議の上、ルート選定することにした

日程は2日
初日はジャンダルム、2日目はウメコバ沢に足を延ばす計画だ
今年最初の冬型に強風が懸念されるが、概ねクライミング日和となるだろう


2025/11/11

松木沢ジャンダルム
【右壁正面ルンゼ~天狗岩中央ルート】

ジャンダルムの基部に幕場装備をデポ
ガチャ類を身に着けて基部に向かう

基部に突き当たって右へわずかにトラバースすると右壁正面ルンゼ
念のため下降路となる右ルンゼを確認してルートに誤りがないことを確認
sakがリードで取付く

正面ルンゼは容易で特に問題となることはない

50mロープでは長さが足りず、フォローに5m程登ってもらった
日本登山大系ではロープスケール60mとなっている
途中でピッチを切るか、最初から一段登ってビレイするといいのだろう

ここから天狗岩に取付く
取付きから左にザレを少し登って、フレークを右上
フレークをホールドに体を岩から露出させるか、フレークと岩壁の間に体を入れ込むか
体躯によっても登り方は変わる

中段テラスからはひと思案
左へトラバースして階段状をハンドホールドにしてから登るか、正面にあるハンドクラックを直上か
どちらを行っても5mほど登れば小バンドに出て上部で合流するように見える

左はトラバースとなり、一手が遠く支点が取り難そう
一方、正面クラックは壁を直上するのでクライミングとして取付きやすく支点も見えた
日本登山大系で確認すると、左階段状を行くのが「ダイレクトルート」
正面クラックを行くのが「中央ルート」と読み取れる

垂壁クラックをひと登りすると若干傾斜が落ちる
あとは落石に注意して天狗岩上部ハングの基部でビレイ
2人とも落ち着いて登ってくる

ここからはこの上部ハングを基部左から回り込んで天狗岩の肩に出る
そしてコブシ岩へとロープを延ばすが、Ⅲ級程の容易なクライミングである

時間はまだ昼前
合議の上、基部まで下って正面壁中央ルンゼへと向かうことにする


松木沢ジャンダルム
【正面壁中央ルンゼ】

sakは既登ルートだったので、yukさんにオールリードしてもらう
1ピッチ目は枯れ葉が堆積していて掃除しながら行く
怠ると滑りかねないので慎重に
途中からは左側の壁を使って、最終的に右壁に乗り移るところが楽しい

2ピッチ目は最初の岩を乗越すのが少し細かい
ルンゼの突き当りを左に抜けてガレ場をひと登り
このあたりは判然としないが、灌木で支点を求める

3ピッチで大スラブ下まで
4ピッチで大スラブ、三本クラックの真ん中を登る
5ピッチでコブシ岩に向けて右上気味に行く
最終ピッチはコブシ岩基部を右に回り込んでトップアウト

以前登った時には5ピッチ以降を左の凹角から登った
今回初めて直上したが、こちらの方がすっきりとしていて爽快だ

本日2度目のコブシ岩は風が強かった
細かい雪もちらついて来たので、少し下って風を避けながらひと休み
2度目の下山はルーファイ訓練も兼ねてoksさんに先頭を歩いてもらう

メンバーの今日の感想を聞いて、明日はウメコバ沢中央岩峰右岩稜に行くことにする
デポを回収して、しばらく移動
40分ほど歩いて日暮れギリギリでブルドーザーのある広場で幕とした

それぞれに幕を張って、水を確保したらyukさんのテントで小宴会
持ち寄ったささやかな酒とつまみで一杯やる

oksさんは久しぶりのテント泊らしい
山での生活技術も大切な登山のテクニック
食事の準備、機材など体験していただくいい機会となった

程よく腹が膨れたら、それぞれのテントに移動して気ままに過ごす
いまだ強い風が梢を切って、辺りは風音に包まれる


夜空に輝く月灯り
幕に晩秋の樹幹が影を落とす

山の月夜は美しい
そして思い出すのはいつも、あの人のことだ

 


2025/11/12

ウメコバ沢
【中央岩峰右岩稜】(チコちゃんルート)

朝は5時半起床でyukさんのテントに集合
目覚ましが鳴らずに15分ほど遅れて合流すると、すでに湯を沸かして待っていてくれた
手早く食事を終えて、身支度を整える
必要な装備だけ背負って、ウメコバ沢へ向かう

チコちゃんルートは5年ほど前に来たことがあった
銅親水公園からの日帰りの場合、アプローチに時間がかかる
加えて、取り付きを見出すのにも時間がかかってしまい、帰りの林道歩きはヘッデン下山となった

しかしブルドーザー広場からならば丁度いいウォーミングアップでアプローチできる
簡易シューズカバーを使って松木沢の渡渉を済ませ、ウメコバ沢F1、F2とフィックス頼りで登る
後は踏み後を淡々と進み、左岸側にルンゼを見た後の開けた場所が取り付きとなる

yukさんからリード
1ピッチ目はスラブを直上していき、岩稜に乗ったあたりで切る
2~4ピッチ目は岩稜を行くが、ルート読み違えと落石に注意

核心のクラックピッチが見えたらsakにリード交代
以前、大変苦労してしまったのでリベンジと思い取り付くが、敢無くテンションをかけてしまう
中盤、シンハンドから右フェイスのガバが取れれば、とは思うが言うほど上手くはいかないのが世の理
次への宿題となった

相当にヨレた状態で次のピッチもA0としてしまう
ここはルート取りによって容易にもなるかと思う
気を取り直して、四角い岩頭基部を左から巻いて凹角を上がり岩角で支点を得る

正面の岩壁を右上するクラックから階段状、さらに右に回り込む
ロープが重くなってしまったので一度切るが、安定した場所はない
岩角に支点をとってハンギングビレイ
フォローを迎え、最終ピッチは傾斜も落ち容易

終了点に出るが、稜線へと岩峰が連なりまだまだピッチを延ばせそうな雰囲気
初めてきたときは右に見えるギャップを越え、この先の岩峰まで行くのではないかと憂慮したものだ
ここで靴を履き替え、ひと休み


青空に突き抜ける山々
吹き抜ける風は、冬の匂いがする

ここまで歩いて来た
その自信がこれからも自分を歩かせる
あとどれだけ行けるのか
解らないからこそ面白い


下降路は岩峰をほんの少し下った右(ひっくり返った枯れ木からの懸垂下降)に求めた記憶があったがその痕跡がない
枯木の腐食や崩壊した可能性もある
周りを捜索すると少し下った左手にフィックスロープがあった
これを辿っていくのかとも思ったが、未知の痕跡に導かれるよりは既知のルートに活路を見出した方がいいと考え、
以前の記憶を頼りに右のルンゼめがけて懸垂下降した

右のルンゼ下降は藪がうるさく、ロープ回収が重くなるので注意が必要
過去の記憶と合致はしなかったが、懸垂下降2ピッチで安定した踏み後に出る
すると右岸側からフィックスロープがかけられている
上部で見かけたフィックスはここに続いているのだろうか

ガレたルンゼを慎重に下り、ウメコバ沢を飛び石しながら下る
取り付きに戻ったら往路の踏み後を戻りF1は懸垂下降で松木沢に至る

あとは幕場を撤収し、林道をひたすら歩く
ジャンダルムの麓までくれば、安定した砂利道をぽくぽく歩くだけなので気も楽だ

夕暮れに消えゆく青空
山波の影に思う、少年時代

日暮れの砂利道を歩けば、あの頃の空が蘇る
哀愁を背負う姿に、少年時代を重ねるのは照れ臭いけど
「楽しかった」
今も素直にそう言い合えるのが嬉しい

日が暮れると、しんとした空気に吐息が白かった

 

sak



動画も

 

奥秩父、中津川・重石 -かさねいし-[ワフー]

2025/11/1 奥秩父、中津川・重石 -かさねいし-[ワフー]


時は巡り、たとえ道が変わったとしても、魂は消えない
そして、萌える

どれだけの熱量があるか
記録を通して、それは伝わる


事の始まりは山登魂山岳会のHPで公開された記録だった
奥秩父、中津川渓谷にある岩稜の開拓記録だ

情熱は人を突き動かす
理由など、ない
自分にできることはひとつ
それを行動で示すことだ

不安定な天気に悩まされた10月某日
単身偵察により地理的理解を深め、取り付きと大まかなラインは自分なりに定めた
あとは機会を待つだけだった

そして11月1日
nksさんとその機会を得た


林道大滝上野線ゲート前から林道を歩く
前夜の雨により所々に水溜まりがあるが、幸い空は青い

しばらく行くと、視界に重石-かさねいし-(ワフー)が聳え立つ
ここで見えるのはあくまで岩壁の下部
さらに上部へと岩壁は続いている


林道で装備のあらかたを身に着ける
間知石の端から一段上がって植林帯を行く
薄い踏み後があるが、足場は悪い

10分ほど登って支尾根に出たらこれを詰めていくと岩壁の末端辺りに突き当たる
このあたりには古いフィックスロープも残置されており、何時の頃か登られていたことがわかる


少しトラバースして、落ち葉の被った岩をひと登り
立ち枯れの大木の袂でロープを出す
このあたりは決して足場がよくない
予め装備を林道で身に着けたのはそういう理由だ


岩壁下部は甘いホールドが多いフェース
一段上にハンガーボルトが穿たれている

なんとか1ピンまで到達
本来はここからフェースを直上なのだと思う
しかしながら昨夜の雨が乾ききらずに濡れた壁は、とても直上する気になれなかった

ベストな選択ではないとはわかっていたが、自分の得意とする泥臭い沢登的なルート取りとした
1ピン後は、右にトラバースし藪のバンドを右上
支点は貧弱な灌木頼り
比較的立派な立ち木を支点に1ピッチ目を切った


2ピッチ目はここから右上
途中からフェイスに復帰するように左上する
だんだん岩も乾いてきてフリクションも信用に足るほどとなってくる


しかし中間支点はあまりとれず、キャメ0.75が一か所、か細い灌木が2カ所ほど
Ⅲ+位だと思うがランナウトしていると、まぁまぁ緊張する

ロープが重くなってきて、ピッチを切る
支点は親指ほどの灌木と気休め程度にしか入らなかったハーケン


右を見ると50mくらい先にピンクテープの巻かれた松の木が見える
山登魂パーティーはあちらを登ったらしい
確かに重石(ワフー)下部のピークに出るあのラインが、クライミングとしての完成度は高い


山登魂の開拓記録には見知った名もあった
彼とは御神楽岳水晶尾根や鬼が面東壁、奥利根横断で行動を共にしていた

奮闘的な登攀で闇につかまり、星空を仰ぎながらの下山に
「11月はヘッデン残業に良い季節ですね」などと軽口を叩き合ったのは、今となってはいい思い出だ

もちろん、その彼の活躍は自分の事のように嬉しかった
そして、眩しかった


3ピッチ目はnksさん
フェースを左上
ようやくすっきりとした岩登りピッチ
10mほど行くとハンガーボルトから支点を得られ、既存ルートに合流する
ココからリッジ状をひと登りで岩稜上の松の木に届く
松の木には懸垂支点が設けられているが、劣化は激しい


もちろんここから懸垂下降も可能だが、アルパインとしては重石(ワフー)の岩稜を詰めあがりたい
岩稜上は脆い岩が堆積し、落石注意
念のため、しばらくはロープを出してクライミングシューズで行く
主岩稜との合流点まで3~4ピッチほどで、Ⅱ~Ⅲ級といったところ

この先どうなっているのかという不安もあったので靴は履き替えずに行く
結果としては、途中フェースやクラックを登る場面もあったが登山靴でも充分登れるレベルだろう




側稜東壁の最下部を登ったために1330のピークまでは遠い
とはいえ、秋と壁を感じながらの登行は楽しかった

1330峰
ここからは東の肩へと10m程懸垂下降
靴を履き替えて歩いて下る

峰の東コルへと向かったと思ったのだが自然と北方向に下らされ、傾斜の落ちた所から東へトラバース
偵察時に立った見覚えあるコルに至った

そこから東南稜へ進み、重石(ワフー)東壁を俯瞰する
コルへと戻ってひと休みしたら、後は落ち葉とガレに埋め尽くされた沢筋を下る

所々にクライミングのフィールドとなり得る壁も散在する
丹念に通ってみてもいいだろう

沢筋は次第に岩壁から離れていくが、トラバースして岩壁基部に沿って進むと取付きに戻る
あとは支尾根~植林帯と今朝の踏み後を忠実に下る


林道に着いたら装備を片付け、歩きながらヘッデンを灯す


「11月はヘッデン残業に良い季節ですね」
あの時の軽口が口をつく

互いの健闘を労った彼との過去の記憶
今日の山行はその彼への「敬意」に他ならない

喜びの時も、悲しみの時も
山を共にした事実は変わらない

そして伝えたい
魂を繋げ、と

時は巡りたとえ道が変わったとしても、

あの日の情熱
それは変わらない

この返歌が彼に届いてくれるといいのだが


sak

 

※この岩稜については山登魂山岳会の調査記録から「重石-かさねいし-」と表記します
また、その記録発表に敬意を表し、当初呼称されていた「ワフー」表記を合わせて記します

◆山登魂山岳会:重石[ワフー]の記録

yama-to-damashii.outdoor.cc/2025/20250728wahuu/20250728wahuu.htm

 


動画も


 

 

川内山塊 中杉川(中退)

2025/9/26-27 川内山塊 中杉川(中退)


秋晴れ
最高の天気の中、往路を戻る

強い日差しに、不明慮な径に藪
体は悲鳴を上げ始めていた
もちろん、気分的な「敗北感」も加わってのことだ

撤退にも物語はある
2日で辿る過去と現在、そして未来

中杉川は遠かった
ただそれだけだった

 

2025/9/26

昨夜は雨が降っていた
とはいえ、早出川ダムから入渓点に行くまでには減水するのではないかという期待もあった
tkmさんは初めての泊付沢旅への期待に満ちていた

事前の計画立案で、いくつかの沢旅候補を挙げた
もちろん、山の嗜好を諮る意味で挙げた候補だったのは言うまでもない
そして今年から沢登を始めた彼が選んだのは中杉川だった

いつかは中杉川
そういう想いはあった
だからこそ、候補の一つとして推挙したのだ
一方でそこへ至る様々な障害が私のためらいを生んでいたのも事実だった
それは藪や害虫といった物理なこと以上に、同好者の存在が課題であった

中杉川を選ぶ
そこに価値を感じたパートナーと沢旅を共にしたかった
そして、ようやく陽の芽をみた計画だった

早出川ダムの湖岸道を進み、途中迷う場面もありながらも駒の神(日本平山登山道との分岐)までは順調だった
そこから松次郎ゼンマイ道を行くが所々不明慮
結局は道を失い、地形を読みながら藪を漕ぐ

意図しない滝場に出くわしたり、蜂の急襲で転がるように斜面を下る場面もあった
もちろん、この局面はどう対応するかを楽しむだけだ

そしてたどり着いた中杉川の出合
自然の前で人は無力であることを痛感するのだ

向こう岸に渡る
それがこんなにも困難なのだ

もちろん前夜の雨がそうさせているのは、流れの濁り具合からもわかった
それでも試行錯誤はしてみた
しかしながら早出川の奔流に耐えることはできそうもなかった

ならば、ここで沢キャンプ
そう開き直って昼には幕を張り、焚火をする

それぞれに持ち寄った酒を吞みながら、早出川の流れを眺める
見通しが甘かった
初めての泊付沢旅を楽しみにしていたtkmさんに申し訳ない気持ちばかりが先立った
それでも楽しいと言ってくれる彼のやさしさに甘えて日本酒を煽る

もはや正体を失って、ひと眠り
日が傾いてくるとさすがに肌寒くなり焚火のそばに身を寄せる

明日は好天の予報
かなりの遡行スピードがないと1日で稜線へ抜けての下山は困難だ
酔いも醒めて頭の中は透き通っていた

熾火を見つめながら、明日の撤退を決意する
幕は張ったまま中杉川を2時間ほど遡行してみることとしてシュラフカバーに包まった


2025/9/27

3時半起床で6時前に早出川を渡る

いまだ流れは強いものの、どうにもならないということはない
あれほど遠かった対岸へと漸く渡ることができた

 

中杉川も水量は多いようだった
とはいえ滝場もなく、しばらくは順調に歩を進める

 

子落としの悪場手前でひと泳ぎ
滝を眺めてから左岸の岩場を少し登って、藪を繋いでいく
途中、細かい岩場もあるがロープを出すまでもない
そして尾根へ上がり切らずに中腹をトラバースしていく

上流にある滝を超えたあたりでロープを出す
懸垂下降20mで沢床に復帰する

帰りの道筋を観察していると、この高巻きはそのまま藪を繋いでトラバースしていけば懸垂下降なく下れることも分かった
しかし、この先の滝も水量多く取り付くのをためらうレベル
再度左岸を高巻いて最後はルンゼを下る
最後の3mほどが足場なく、岩にロープを巻いて支点とし懸垂下降した

降り立った先に見える小滝には見覚えがあった
WEBの記録では水線を突破していたが、現状ではとても突っ込めそうもない
巻くとすれば、今下ってきたルンゼを登り返して高巻くほかなさそうだった

時間は8時前
もう少し遡る時間的余裕はあったが、このあたりが潮時だろうか
峡谷のゴルジュを見ることなく踵を返す

中杉川を知ったのは2003年
ガンガラシバナやジッピをこの目で見に行くことができるかもしれない、そう思い始めたころだった

いつかは中杉川
そう思うに至ったのは、前代表から聞いた鮮烈な表現だった
「両手を広げれば左右の岩壁を触ることができるほどの峡谷で、進めば進むほどその先が気になる。文句なく面白い」

憧れを抱きつつも、そのころの私には到底荷の重い渓谷だった
そして刻まれた想い

時は過ぎ、あの頃とは変化した渓
今は亡き彼の見た渓には、もう戻らない
それでもこの手で触れてみたい
云わば追憶の片想いだった

子落としの滝場は往路を辿るように巻き下って幕場へ帰着
撤収を終えて、昨日下ったルンゼ脇をひと登りで支尾根に出る
あとは記憶をたどって早出川ダムへと戻る

道中の何気ない会話
楽しいと言ってくれた彼のやさしさ
次第に撤退行の傷心も癒えていく

眼下にダムの湖尻が見える
下流へと進むにしたがって湖面の色は青から黄土色、茶色へ変わっていく
おそらく昨日の濁流がこのあたりまで下ってきたのだろう
そんな話をしていると、ダム堰が見えほっとする

この湖岸路をまた歩かねば中杉川には届かない
もうウンザリと思った道も、「また行こうか」と思い直すことはよくあることだ
今の辛苦は道端の石のようなもの
だからこそ、今もこうして山に向き合っているのだろう

片想いは叶わぬものではない
想いを届けにその先を目指す
今までだってそうだったじゃないか
そう思えるのだから、存外いい沢旅だったのかもしれない

下山後のひと時
ヒル退治をしながら、そんなことを考えていた


sak


動画も

 

巻機山・登川米子沢

巻機山登川米子沢


「デート沢」というのは、山岳雑誌:岳人(No.721 2007年7月号)の第一特集で、
名だたる岳人によるアンケート結果を基に構成された記事において紹介されたものです

その定義は「デート沢とは関係を深めたい異性(初心者)と楽しむために神様が用意したような渓をいう」とあり、
岳人編集部や沢に精通した岳人により、様々な渓谷が推挙されています


やさしくてきれいな渓で水遊びのような沢登を楽しみたい
ナメ沢+ブナ沢=デート沢ともいえる珠玉の渓の一つとして米子沢も紹介されている


04 巻機山登川米子沢
ナメ沢の古典といってもいい名渓
上部のナメはまるで空から水がひたひたと流れ落ちてくるかのように美しい


注釈として、「全体に傾斜のあるナメなので滑落に注意」ともあり、注意喚起も発せられていますので、遡行には充分ご注意ください

余計なお世話かもしれませんが、誘う相手[異性(初心者)]に心当たりのない方でも十分楽しめますのでご安心ください。

※大きなお世話です


2025/9/20 巻機 登川米子沢

朝、小雨が落ちる
鉛色の雲が山間を覆っている

2025年シーズンの沢旅は晴周期と休日がズレて天候に悩まされることが多かった
それでもその間隙を縫っての沢旅は自らの知見を広げるものとなった
その経験を踏まえて、今日も群馬県側が悪天予報、新潟県側は夕方まで天気は保つという見立てで入渓する


シーズン終盤
越後の美渓、米子沢を行く

桜坂駐車場から林道を進み、米子沢に入渓
水流なくゴーロが続く
ここで水流なければ、ゴルジュ帯の通過も容易だろう


しばらく行くと水流が出てきて水際を縫いながら遡っていく
最初の滝場を通過し、大滝を右岸から巻く
踏み後も明確、さすが人気の渓谷だ


今回のリーダーはnksさん
とかく米子沢は上部の美しさから「超癒し系」のイメージがある
しかし、中流部のゴルジュなど高難度ではないものの要所もあり、遭難事故も多い
そういう意味で「デート沢」と気軽に呼んでいいものかとためらいはある

沢の魅力を新人に感じてもらったり、ルーファイ、判断などリーダー養成の場として丁度いい沢体験ができる場所
個人的に米子沢はそういった位置付けの渓谷だ
もちろん、おじさん二人で「デート沢」でも無かろうよ、ということは言うまでもない

nksさんは先頭に立って滝場を見極め歩を進める
越後の沢はスケールが大きい
この沢の何処を行くのか
ルートファインディングと意思決定、そして判断のトレーニン

バリエーションルートを行くためには、技術・知識・計画・体力以上に「対応力」が求められる
登れてしまえば、自信はつく
有能感を得たとき、人は自信という落とし穴に嵌りやすい

その落とし穴にどう対処するか
冷静な観察と判断、引き出しの多さは経験で培われる
それが対応力だ


この後出てくる滝場は水流右の乾いた小岩壁を行く
些か立っているのでロープを出す

登り終えて振り返れば、後方に1パーティ
あれ、ちょっとのんびりしすぎたかな?

nksさんに「後ろから来てますね」と声をかける
それを聞いた彼はどう感じたかはわからない
私とて後ろのパーティーに対抗意識を燃やしたわけではない
しかし「沢屋としての見栄」という対応力が私的に発動していたのは否めまい


この後は中流部のゴルジュ帯
経験を積むには最適な区間
時にsakも先頭を代わって思い思いのルート取りで遡行感を楽しむ

 


今日は水量が少なめで楽しめているが、水量が多ければ奮闘的な遡行となる
このあたりが米子沢の難しさでもあると思う
入渓点の水量で見極めたい

滝場を越えると、米子沢の大ナメ帯
晴れていれば草原と青空が相まって広々とした開放感が美しい
しかし霧に包まれたそれも幻想的で美しい

と、信じ切る思い込みも持ち合わせたい


源流部では木苺がそこかしこに実っていて、食べ放題
ひとつ、ふたつと口に放り込む
ほのかな甘酸っぱさに、青春の味がした

デート沢かぁ
確かに米子沢はデート沢なのかもしれないなぁ
パートナーの姿を見ながら思わずため息が出たが、お互い様なので黙っておくことにした

いよいよ水流も細くなり、避難小屋への踏み後を上がる
風が強いので小屋に入って身支度とエネルギー補給を済ませる

山頂から下ってきた方が小屋に入ってきた
山頂は相当風が強いらしい

心して巻機山の山頂まで往復
途中、霧が晴れて巻機の草原を一望

なんという事でしょう!
真っ白な視界の中に、このような美しさが秘められていたとは!
これまでベールに隠されていたこの景観は、今日この時のためにあったとでもいうのでしょうか

このタイミングで、この景観
解放感が溢れて全てが美しく見えるのは、私だけではないはずだ
もしこれがデートなら運命を感じてしまう場面
そして再びパートナーの姿を見て我に返るが、やはりお互い様なので黙っておくことにした

その後、辺りはガスに巻かれて真っ白となり、黙々と山頂に向かう
風は山頂に近づくほどに強まり、まっすぐ歩くのも辛い
「nksさん、このあたりですよ」
「あぁ、そうですね」

霧が晴れたときの感動とは対極のように山頂を事務的に往復する
まぁ、これが現実というものだ


後は今日の余韻を噛みしめながら高度を落としていく

見極めの難しい天気読みと決行判断
中流部のゴルジュと侮れない濡れた大ナメの歩き
想定通りのタイムスケジュール
こういった経験が、山の素養を育てていく

考えてみれば、自分も手探りで山を求めていく中で薄氷を踏むような山もあった
取り返しようのない失敗こそなかったものの、それはただの幸運に過ぎなかったのかもしれない

成功は自信という美酒と共に隙を作る
そして失敗は挫折と共に成長を生む

一足飛びに成功を手に入れることは大変魅力的だ
その成功の中に、いかに失敗を見出せるのか

三度、パートナーの姿を見る
晴れ晴れとした顔で歩く彼を見て、我に返る
今そんな説法は響かないだろう

私とてこの山行に学びが無かったわけではあるまい
山を共にしてこそ、友情は深まる

デート、というよりは同志だな

言葉にしたところで、安っぽさだけが残る
お互い言葉にせずとも、分かり合えてる
そう感じるのなら、山ヤは黙って歩けばいい

風が森を吹き抜ける
ほのかに秋の匂いがした


sak


 

動画も

 

 

只見川大白沢アサユウ沢~クロウ沢下降(大白沢池・カッパ池・東白沢池・無名湿原巡り)

2025/9/9‐11

只見川大白沢・湿原巡り
アサユウ沢右俣左沢~クロウ沢右俣下降
(大白沢池・カッパ池・東白沢池・無名湿原)


向こう岸を望む
足元に只見川の流れ

川向うにいる未来の自分と今の自分
彼我の違いは何か

この川を渡る意味
独り自由を求めて

 

明るすぎる場所は居心地が悪い

とかく社会は魑魅魍魎が跳梁跋扈する、私にとっては魔界のようだ
そして自由を求めて選んだのが、大白沢だった

只見川を渡り、大白沢を行く
そして佇む池を目指す
径はすべて、自分で選ぶ

 

2025/9/9

砂子平の駐車場に車を止めると、すかさず漁協の監視員さんから声を掛けられる
山に入って池を目指すと伝える

前夜、檜枝岐は土砂降りの雨だった
それを踏まえて監視員さんと天気の話するのだが、あまり的を得なかった

しばらく霧に包まれた辺りを見回していると、隣の車の方が準備を始めた
釣りかなと思ったが、同じアサユウ沢を行くらしい

平日に地味なる場所を共に目指すという偶然
とはいえ、お互い独りを堪能しに来ていることは明らかだ
彼を見送ってからゆったりと準備する
もはや、道中遭遇しないであろう時間を空けてから出発する

 


心配していた只見川は川底も見えてなんとか渡渉ができそう
下山時を想定して少し上流の「籠渡し」も確認してみるが、籠は外され乗ることはできなかった
どうにかすればワイヤーにセットもできるのだろうけど、それを試してみるほどの時間はない
籠渡しのワイヤー下あたりの流れを読んで対岸に渡る

さて、これで下山時に只見川が増水していたら籠渡しを利用するという選択肢はない
大白沢に入るにはこういった覚悟も必要だ

大白沢は平水
それでも流域面積は広いので流心の流れは強い
水際を選んでしばらく平凡な河原を行くのだが、このあたりは森も近くて気分がいい

 

池ノ沢出合の手前から滝場が始まる
ここは右岸を巻いて池ノ沢出合に出る

この後出てくる滝場にも巻径があるみたいだけど、出来るだけ流れを行くかヘつりを多用して遡る
泳いでもいいかなと思っていたけど、腰を濡らす程度で通過ができた

荒山沢を分けてクロウ沢へと進む
滝場やゴルジュはあるが、容易ならざる難場はない

本流らしからぬクロウ沢を分けてアサユウ沢へと進む
しばらくは平和な流れで遡行もはかどる

キノクラ沢出合の手前左岸にとても素晴らしい幕場があって、後ろ髪をひかれつつも今後の行程を踏まえて先を急ぐ
右にキノクラ沢を見て、左のアサユウ沢三段滝を鑑賞する

三段滝は右岸左岸ともに高巻きの記録があるが、自分の見立てで左岸を巻くことにする
キノクラ沢に少し入って、傾斜の緩い場所を選んで登り、支尾根に立つ
この支尾根を詰めて大きく巻いた記録も多いが、ここは懸垂下降でアサユウ沢のゴルジュへと下降する


降り立った場所は比較的明るいゴルジュ
しばらく行くと大きな滝を落としていた
水勢も強く取り付くシマもない

だいぶ手前の右岸を高巻くがなかなかの急傾斜
時に胸を突く木登りピッチもあって、踏ん張りどころといった感じ
チェーンスパイクとゴム付手袋があると心強い

支尾根に乗れば比較的ラクな藪漕ぎで、目印にしていた巨木を越えるとロープを使わずに沢床に降りられた
この後も小滝は続くが、それもわずかで河原が広がり開けてくるとアサユウ沢の二俣

このわずか手前の左岸に幕場適地があった
地面は砂地で、薪は集めるまでもなくそこら中に転がっている
おそらく、この先に行けば先行さんとバッティングするだろうという思いもあってここに腰を落ち着けることにした


幕を張っている途中で雨に打たれ、焚火はあきらめかけたものの幸いすぐに上がった
ならば、今宵を演出するための焚火は外せない

勢いよく燃え上がる焚火で衣服を乾かしながらの酒とつまみ
はっきりしない空模様に月を見ることは叶わなかったが、妖艶なる炎を見ながらウトウトするのは実にいい
時に爆ぜ、目を覚ます

奥深い森に、独り分け入る
それが心細いか、それとも高揚するのか
自らにそれを委ねる
自由とはそういうものかもしれない


2025/9/10

明けて4時6時
朝はラーメンを食し、明るくなったら手早く撤収

 


アサユウ沢の二俣は右俣を行く
途中10mほどの滝はあるが、左岸を小さく巻く
奥の二俣、左岸に大変立派な幕場適地
ここに先行の幕があり、すでに出立した様子

奥の二俣は左沢に入る
幾つか滝を越えていく
5mくらいのナメ滝を脆弱な草頼りでいくのが核心か

流れは一旦伏流となる
やがて復活するとわずかで源流の雰囲気
蛇行し始めると最初の目的地はもう近い


大白沢池

明るすぎる場所は居心地が悪い
社会はもとより、人気山域やその山頂も私にとっては明るすぎる

地味に輝く
そういう嗜好が、いま私をここに立たせているといっていいだろう
悲願とか、念願とかいう感情はなく、この光景に静かに感謝する

大白沢池から湿原を南東へと進む
湿原の端から藪に入る
沢筋が多くあってこれを利用する
このあたりは、GPSが大活躍で一時代前のように地形図頼りならかなり苦労するだろう
これら無しに活動していたことに敬意を表したい


カッパ池

藪の中にひっそりと佇む池
黒く輝く水面が美しい

人知れず佇む場所にあっても生命の営みは変わらない
トンボが次世代へのバトンを繋いでいた

ここからは藪も濃くなり、東へ向かってヤブコギ
少し登ってトラバースなのだが、なかなかはかどらない
ここでもGPSは大活躍で方向を見定めたら目印の立ち木を選んでひたすらヤブコギ


小尾根を越えたら眼下に東白沢池
池に直接出ないよう、湿原を目指して下る


東白沢池

池の大きさは大白沢池に劣るが、草原も広く高低差があってとても見晴らしがいい
山中の楽園だ

この場所に独り佇む贅沢と云ったら、言葉もない
今を由とする
僕らは自由を求めて、希望と孤独の間に何を見るのか


ここからはクロウ沢の源頭へ向かう
大した藪を漕ぐことなく、源流に出て水線を追う

途中、ザックが二つデポしてあった
おそらくクロウ沢を詰め上げて湿原巡りに出かけたのだろう
マイナーな場所だと思っていたが、やはり湿原マニアには堪らない場所なのだ
趣味嗜好が近いであろう、見えない仲間にエールを送る

この先、二俣に出合うとその右岸にも湿原があるので立ち寄っていく
草地になりかけの池塘や湿原を縦貫する小さな流れもあって気持ちの良い場所だ


遠く、鹿が啼く
彼らのテリトリーに入り込んだことを詫びながら控えめに佇む
小さなせせらぎが心地いい


さて、ここからだ
今日は午後から天候は崩れる
出来ればアサユウ沢出合まで下りたかった

とはいえ、途中で懸垂下降を要する20m級の滝が二つある
加えてお助け紐(10m)を使っての懸垂下降もいくつかあるので思うほどはかどらない

次第に空は鉛色
ポツポツと雨が落ちてきたころ、1350mの二俣に着く
時間は15時半、アサユウ沢まであと2時間くらいだろう
そこまでは何とか頑張ろうかと考えていた


行く手に巨大な岩が見えた
真ん中には窪みがあって、その中にご神体でも祭られているのではないかと思えるような形をしていた
あまりにも立派なのでしげしげと眺めていると、その裏側はなんと岩小舎になっている


「おおー!」と思わず声が出た
見物しに行ってみると、これまた「泊って行ってくださいな」と言わんばかりの平坦地もあって岩庇が突き出している

出逢いは旅につきもの
予期せぬ出逢いには運命すら感じる

今日はここで泊まることにして、ザックを下す
すると雨脚は徐々に勢いを増す
慌てて水だけ確保して、幕場を整えていると流れは濁流となっていた


土砂降りを眺めながら快適な岩小舎ライフ
この天候で荷物が全く濡れないという幸運ほどありがたいものはない

しかし、問題は明日
ラジオの予報は一部地域で短時間大雨警報も出ている
停滞前線は早い時間に南下するようなので雨は比較的早めに収まると考えた
問題は朝までにどの程度減水するかだろう
雨に打たれて不安な夜となりかねないところ、神なる岩小舎に守られて早々睡魔に沈んだ


2025/9/11

3時半、早めに起床
いつ出発してもいいように食事を摂って待機
暗闇に心なしか沢音が大きい


嫌な予感は当たって、明るくなると昨日の夕方よりもひどい増水

2条だった滝が全幅滝になっている
しかもひどい濁り方、時にゴロゴロと岩が流されている音も聞こえる

さて、どうしたものか
地図を見ながら、いくつかのバリエーションを検討する
支尾根に登ってから藪を下る、支尾根もしくは沢(クロウ沢左俣)を詰め上げて与作岳から踏み後を辿って尾瀬の東電小屋に向かう
しかし、幸いにして雨は上がっていた

一番労力を要さないのはクロウ沢を下ること
時間計算するとこの場所を10時までに出発できれば、日暮れまでには下山できそうだった
ということで、安全猶予を含め最大9時まで待機とする

岩小舎の下で濁流を見ながら想うのは、家人のことだ
もし、連絡なく下山遅延すればひどく心配されるだろう

当然、職場や山仲間も同様だ
自己満足のために多くの方に心配と迷惑をかける
できれば避けたいことだ

自由を求めて、戒めとなる
この時に至り、自分は独りではないと実感する


8時
平水とはいかないが、だいぶ減水した
沢床がうっすら見える程度に濁りも収まってきた
これを機に出立


できる限り巻きを多用
丁寧に下降を重ね、途中で懸垂下降する場面もある
2時間ほどでアサユウ沢に出合う


アサユウ沢を合わせても、それほどひどい増水ではなくこの先の目鼻が立つ
あとは2日前の記憶をたどる
巻き径を積極的に利用し、時に流れに身を任せる

池ノ沢出合からの巻き道を下ると流れは平凡となる
淡々と水際を繋いでいく

そして、只見川

籠渡しが使えないことは確認済だった
あとは水量次第だ


向こう岸を望む
足元に只見川の激しく濁った流れ

さすがに足元の見えない濁流を渡渉するのは本能が無理だと言っている
川幅の広い比較的緩やかな流れを行くか?
その選択肢も、一か八かで安全担保はない
思いのほか深い場所に嵌ったら、体ごと持っていかれる
途中で行き詰ったとしても、戻ることも困難になるだろう

川向うにいる未来の自分と今の自分
心細さが高揚を上回る

残された道は籠渡しのワイヤーでチロリアンブリッジをするか、金泉橋まで下るという選択肢だ

進む先は、自分で選ぶ
正解はない
選択が積み重なって未来は決まる


只見川左岸を下っていく
はじめは良かったが、やがて流れが岩壁を削って流れる場所に出る

高巻くにも岩壁に阻まれている
だいぶ戻って尾根末端から行く方法もあるが大変な労力がかかりそうだ

とはいえ、この回避ルートは決して歩かれていないわけではないだろう
よく観察すると、削られた岩場の20mくらい先はいったん河原になっている
おそらく水量が少なければ水際を河原まで歩けるのだろう

あそこまで流されるしかないか

しかしながら赤茶色の濁流に身を任せるのは、少々怖い
いや、かなり怖い
しばし、逡巡

もう、流されるしかない
そう観念して一歩踏み出すと、流れに削られた岩壁を5m登れば、灌木に手が届きそうなのが分かった
脆い岩場なので一手一手慎重にテスティングしながら、攀じって藪に手が届く
あとは急な藪斜面を15mほど上がると傾斜も落ち着いた

そこからトラバースしていくと、先ほど見えた小河原が下に見える
そして、ここにピンクテープ
やはり増水していなければここが巻き道へ上がるポイントなのだろう


ここまで来ると一安心
時に現れるピンクテープを辿っていき、県境の標識が遠望できた
あそこが金泉橋だ

向こう岸へと渡る意味
嫌悪も、怒りも、嫉妬も、欲望も、正義も
行く手を阻む濁流のようなもの

それらを完全に手放せるほど強くはないけど、何かと比べる必要もない
自らに由る


独りだけが自由、ではない
大切な人の喜ぶ顔が見たい
これもまた自由ではなかろうか

家人を思い浮かべながら、金泉橋を渡る


sak


 

動画も

 

 

万太郎谷井戸小屋沢右俣

2025/8/24 万太郎谷井戸小屋沢右俣


Where there is a will, there is a way

 


土樽PAを見ながら林道を進む
万太郎谷沿いのほど広い駐車適地は手前で路面がひどく抉れていて、通過を躊躇うレベル
少し手前のスペースに戻って車を止める

朝焼けは見えないが、薄雲が高く広がっている
何とか天気は保ちそうだ
あとは、沢のコンディション次第

1週間前の記録では、濁りとヌメリが酷いとあった
上流の雪渓や直近の雨量によってコンディションは変わる
それが沢のオモシロい所でもある

井戸小屋沢右俣は数年前に増水で早々に撤退、転戦を余儀なくされたルート
果たして今回はどうか


メンバーはnksさん、skmさん、tkmさん
公募から山行日までの時間が少なかったので行先はsakチョイス
だけどメンバーにはルーファイ能力向上を着眼点に先頭を歩いてもらう予定

楽しいだけじゃダメなんです
まして、後を追うだけの山には学びがない
自分の力で径を見出す
なにより山人としての成長を重視する
そいういうヤマを乗り越えて行ってほしい

林道を進み、下山予定の吾策新道入口を見送る
この先で左の谷へと導かれていき、入渓
最初の堰堤手前に出る

心配していた水量は、ほぼ平水
しかし、確かに少し濁っているように見える

二つ目のスリット堰堤は多量の流木が堰き止められて、越えるのに苦労しそう
ここはskmさんの見立てで左岸を巻く
堰堤上から梯子の鉄杭を支点に懸垂下降という案もあったけど、ここは巻き下ったほうが早い

沢登りをするにあたって技術やテクニックは必要
それを身につけていればどんな場面も対応できるけど「安全で早く容易に」対応できる場所で時間のかかるテクニックは使わなくてもいい

堰堤を越えるとまるでダムの湖尻のように泥が堆積している
これが濁りの正体か
ここから上流は幾分濁りも減るが、流れの途中に留まる流木がそこここに目立ち、荒れた印象

途中の滝場で先頭を行くskmさんがおもむろに泳ぐ
そして、みな観念したかのように泳ぐ

暑い夏
この沢旅の前半戦、ウォーターパラダイスの開幕だ
目指せ!アルパインスイマー!
万太郎谷をチョイスした意味を受け取っていただきたい

一度泳いでしまえば、あとは躊躇もなくなる
積極的に泳いで滝に取付く

岩畳のナメをすべる樋状の流れにウォータースライダーもできそうだが、水勢強くちょっと怖い
魚止メ滝は左をヘつって、最後は少し泳いだら左の岩をひと登りで通過

アレコレ言いながらどこを行くか話し合う
気付いたことを言葉にすることの大切さ
伝えようとする気持ちが交錯する
仲間と行く沢登にはこんなシーンがよく似合う

関越トンネルの換気口を見上げる
自然と文明
文明ってスゲぇなぁという想いと共に、このコントラストに唖然とさせられる

大釜は右壁を容易に登れるんだけど、nksさんとtkmさんは果敢に水線へとトライ
流れの速さに耐えながらも登っていく
いいねぇ、楽しんでるねぇ

オキドウキョの流れを見ると、靄る瀞場
さて、泳ぎますか

前半は右岸から左岸に移るところで少しだけ泳ぎ
中間部はnksさんがトライしてみるがちょっと大変そう
ということで左岸階段状を上がって軽く巻く

そして後半が見せ場だ
tkmさんが切り込んでいく
15mくらい泳いで一段上がり、最後の滝は滝裏を行く

日常の延長線上に実践がある
そしてココ一番という場面で出るのが、本性
本来の自分、性根だ

日常をどのような心持で相対しているか
そこをどのように鍛えているのか
それが問われるのだ

泳ぎ着いた先の滝を見定める
轟轟と流れる滝の中に身を投じる
そこには、それを越えて叫ぶ自分がいた

ここから先は流れの透明度も高まる
陽に輝く水面が美しい

4m滝は左を小さく巻く
次の3mは左の壁を登る
そして右に井戸小屋沢が出合う

小滝が続いて、泳いだり登ったり小さく巻いたりを繰り返す
開けたところで尾根がまだまだ遠く高く聳える
果てしない感じがいい

明るい花崗岩の小滝をそれぞれに閃くルート取りで越えていく
懸念していたヌメリも気になることはなく快適に進む

雪渓の詰まった小障子沢を正面に井戸小屋沢は右に折れる
最初の滝は左岸をヘツる
CS滝は右岸を軽く巻き、ズンズン小滝を越えていく

オキ障子沢を過ぎるころには陽も出て少々暑いので、小さな釜を水風呂にして涼む
20m大滝は左岸の乾いたところを登る

この後も小滝を快適に越えていくと井戸小屋沢の本谷(左俣)
ここを右に行くのだが、沢は傾斜を増していく

途中、手足の細かい滝が幾つか現れる
乾いた岩を登るなら不安ないが、水流際はヌメリがあり少し怖い
時にお助け紐を出して、肩がらみで確保する
バックアップ支点は笹に取る

こういった山での引き出しを実践で伝えたい
モノにするかどうか、あとは受け取る者次第だ

Where there is a will, there is a way
-意志あるところに道は開ける-

山に向かうために必要なこと
その資質はそういうことだと思っている

次第に流れは細くなり、消えそうなところで水を確保
そこから上はボサのかかる水線をひたすら上がる

先頭で「ヤブコギだー」とnksさんが言う
いえいえ、これはヤブコギではなくって沢筋を登ってるだけですよ、と嗜める

そして本当のヤブコギもなく吾策新道にポンと出る
谷川の主稜線は生憎ガスがかかって見えない

万太郎山に行く人は誰もおらず、靴を履き替えたら下山にかかる
登山道があるという幸せを享受する

途中、陽が出てきて蝉が鳴き始めるが、森の中なので涼しく快適
淡々と下って行けば、今朝通過した舗装道路に出る

支度を済ませて、車に乗り込むとフロントガラスに雨が落ち始める
「雨に降られずによかったですね」と、tkmさんが言う

「もちろん計算通りです」
私はしたり顔で言う

The courage to declare coincidence as necessity.
-偶然を必然と言い切る、勇気-

日常にどのような心持で相対しているか
そこをどのように鍛えているのか
それが問われるのだ

 

sak

 

 


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