川内山塊 中杉川(中退)
2025/9/26-27 川内山塊 中杉川(中退)
秋晴れ
最高の天気の中、往路を戻る
強い日差しに、不明慮な径に藪
体は悲鳴を上げ始めていた
もちろん、気分的な「敗北感」も加わってのことだ
撤退にも物語はある
2日で辿る過去と現在、そして未来
中杉川は遠かった
ただそれだけだった
2025/9/26
昨夜は雨が降っていた
とはいえ、早出川ダムから入渓点に行くまでには減水するのではないかという期待もあった
tkmさんは初めての泊付沢旅への期待に満ちていた
事前の計画立案で、いくつかの沢旅候補を挙げた
もちろん、山の嗜好を諮る意味で挙げた候補だったのは言うまでもない
そして今年から沢登を始めた彼が選んだのは中杉川だった

いつかは中杉川
そういう想いはあった
だからこそ、候補の一つとして推挙したのだ
一方でそこへ至る様々な障害が私のためらいを生んでいたのも事実だった
それは藪や害虫といった物理なこと以上に、同好者の存在が課題であった
中杉川を選ぶ
そこに価値を感じたパートナーと沢旅を共にしたかった
そして、ようやく陽の芽をみた計画だった



早出川ダムの湖岸道を進み、途中迷う場面もありながらも駒の神(日本平山登山道との分岐)までは順調だった
そこから松次郎ゼンマイ道を行くが所々不明慮
結局は道を失い、地形を読みながら藪を漕ぐ


意図しない滝場に出くわしたり、蜂の急襲で転がるように斜面を下る場面もあった
もちろん、この局面はどう対応するかを楽しむだけだ
そしてたどり着いた中杉川の出合
自然の前で人は無力であることを痛感するのだ

向こう岸に渡る
それがこんなにも困難なのだ
もちろん前夜の雨がそうさせているのは、流れの濁り具合からもわかった
それでも試行錯誤はしてみた
しかしながら早出川の奔流に耐えることはできそうもなかった

ならば、ここで沢キャンプ
そう開き直って昼には幕を張り、焚火をする
それぞれに持ち寄った酒を吞みながら、早出川の流れを眺める
見通しが甘かった
初めての泊付沢旅を楽しみにしていたtkmさんに申し訳ない気持ちばかりが先立った
それでも楽しいと言ってくれる彼のやさしさに甘えて日本酒を煽る
もはや正体を失って、ひと眠り
日が傾いてくるとさすがに肌寒くなり焚火のそばに身を寄せる

明日は好天の予報
かなりの遡行スピードがないと1日で稜線へ抜けての下山は困難だ
酔いも醒めて頭の中は透き通っていた
熾火を見つめながら、明日の撤退を決意する
幕は張ったまま中杉川を2時間ほど遡行してみることとしてシュラフカバーに包まった
2025/9/27
3時半起床で6時前に早出川を渡る
いまだ流れは強いものの、どうにもならないということはない
あれほど遠かった対岸へと漸く渡ることができた


中杉川も水量は多いようだった
とはいえ滝場もなく、しばらくは順調に歩を進める



子落としの悪場手前でひと泳ぎ
滝を眺めてから左岸の岩場を少し登って、藪を繋いでいく
途中、細かい岩場もあるがロープを出すまでもない
そして尾根へ上がり切らずに中腹をトラバースしていく
上流にある滝を超えたあたりでロープを出す
懸垂下降20mで沢床に復帰する

帰りの道筋を観察していると、この高巻きはそのまま藪を繋いでトラバースしていけば懸垂下降なく下れることも分かった
しかし、この先の滝も水量多く取り付くのをためらうレベル
再度左岸を高巻いて最後はルンゼを下る
最後の3mほどが足場なく、岩にロープを巻いて支点とし懸垂下降した
降り立った先に見える小滝には見覚えがあった
WEBの記録では水線を突破していたが、現状ではとても突っ込めそうもない
巻くとすれば、今下ってきたルンゼを登り返して高巻くほかなさそうだった
時間は8時前
もう少し遡る時間的余裕はあったが、このあたりが潮時だろうか
峡谷のゴルジュを見ることなく踵を返す


中杉川を知ったのは2003年
ガンガラシバナやジッピをこの目で見に行くことができるかもしれない、そう思い始めたころだった
いつかは中杉川
そう思うに至ったのは、前代表から聞いた鮮烈な表現だった
「両手を広げれば左右の岩壁を触ることができるほどの峡谷で、進めば進むほどその先が気になる。文句なく面白い」
憧れを抱きつつも、そのころの私には到底荷の重い渓谷だった
そして刻まれた想い
時は過ぎ、あの頃とは変化した渓
今は亡き彼の見た渓には、もう戻らない
それでもこの手で触れてみたい
云わば追憶の片想いだった

子落としの滝場は往路を辿るように巻き下って幕場へ帰着
撤収を終えて、昨日下ったルンゼ脇をひと登りで支尾根に出る
あとは記憶をたどって早出川ダムへと戻る

道中の何気ない会話
楽しいと言ってくれた彼のやさしさ
次第に撤退行の傷心も癒えていく

眼下にダムの湖尻が見える
下流へと進むにしたがって湖面の色は青から黄土色、茶色へ変わっていく
おそらく昨日の濁流がこのあたりまで下ってきたのだろう
そんな話をしていると、ダム堰が見えほっとする
この湖岸路をまた歩かねば中杉川には届かない
もうウンザリと思った道も、「また行こうか」と思い直すことはよくあることだ
今の辛苦は道端の石のようなもの
だからこそ、今もこうして山に向き合っているのだろう

片想いは叶わぬものではない
想いを届けにその先を目指す
今までだってそうだったじゃないか
そう思えるのだから、存外いい沢旅だったのかもしれない
下山後のひと時
ヒル退治をしながら、そんなことを考えていた
sak
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