「デート沢」というのは、山岳雑誌:岳人(No.721 2007年7月号)の第一特集で、
名だたる岳人によるアンケート結果を基に構成された記事において紹介されたものです
その定義は「デート沢とは関係を深めたい異性(初心者)と楽しむために神様が用意したような渓をいう」とあり、
岳人編集部や沢に精通した岳人により、様々な渓谷が推挙されています
やさしくてきれいな渓で水遊びのような沢登を楽しみたい
ナメ沢+ブナ沢=デート沢ともいえる珠玉の渓の一つとして米子沢も紹介されている
04 巻機山・登川米子沢
ナメ沢の古典といってもいい名渓
上部のナメはまるで空から水がひたひたと流れ落ちてくるかのように美しい
注釈として、「全体に傾斜のあるナメなので滑落に注意」ともあり、注意喚起も発せられていますので、遡行には充分ご注意ください
余計なお世話かもしれませんが、誘う相手[異性(初心者)]に心当たりのない方でも十分楽しめますのでご安心ください。
※大きなお世話です
2025/9/20 巻機 登川米子沢
朝、小雨が落ちる
鉛色の雲が山間を覆っている
2025年シーズンの沢旅は晴周期と休日がズレて天候に悩まされることが多かった
それでもその間隙を縫っての沢旅は自らの知見を広げるものとなった
その経験を踏まえて、今日も群馬県側が悪天予報、新潟県側は夕方まで天気は保つという見立てで入渓する
シーズン終盤
越後の美渓、米子沢を行く
桜坂駐車場から林道を進み、米子沢に入渓
水流なくゴーロが続く
ここで水流なければ、ゴルジュ帯の通過も容易だろう
しばらく行くと水流が出てきて水際を縫いながら遡っていく
最初の滝場を通過し、大滝を右岸から巻く
踏み後も明確、さすが人気の渓谷だ
今回のリーダーはnksさん
とかく米子沢は上部の美しさから「超癒し系」のイメージがある
しかし、中流部のゴルジュなど高難度ではないものの要所もあり、遭難事故も多い
そういう意味で「デート沢」と気軽に呼んでいいものかとためらいはある
沢の魅力を新人に感じてもらったり、ルーファイ、判断などリーダー養成の場として丁度いい沢体験ができる場所
個人的に米子沢はそういった位置付けの渓谷だ
もちろん、おじさん二人で「デート沢」でも無かろうよ、ということは言うまでもない
nksさんは先頭に立って滝場を見極め歩を進める
越後の沢はスケールが大きい
この沢の何処を行くのか
ルートファインディングと意思決定、そして判断のトレーニング
バリエーションルートを行くためには、技術・知識・計画・体力以上に「対応力」が求められる
登れてしまえば、自信はつく
有能感を得たとき、人は自信という落とし穴に嵌りやすい
その落とし穴にどう対処するか
冷静な観察と判断、引き出しの多さは経験で培われる
それが対応力だ
この後出てくる滝場は水流右の乾いた小岩壁を行く
些か立っているのでロープを出す
登り終えて振り返れば、後方に1パーティ
あれ、ちょっとのんびりしすぎたかな?
nksさんに「後ろから来てますね」と声をかける
それを聞いた彼はどう感じたかはわからない
私とて後ろのパーティーに対抗意識を燃やしたわけではない
しかし「沢屋としての見栄」という対応力が私的に発動していたのは否めまい
この後は中流部のゴルジュ帯
経験を積むには最適な区間
時にsakも先頭を代わって思い思いのルート取りで遡行感を楽しむ
今日は水量が少なめで楽しめているが、水量が多ければ奮闘的な遡行となる
このあたりが米子沢の難しさでもあると思う
入渓点の水量で見極めたい
滝場を越えると、米子沢の大ナメ帯
晴れていれば草原と青空が相まって広々とした開放感が美しい
しかし霧に包まれたそれも幻想的で美しいと信じ切る、思い込みも持ち合わせたい
源流部では木苺がそこかしこに実っていて、食べ放題
ひとつ、ふたつと口に放り込む
ほのかな甘酸っぱさに、青春の味がした
デート沢かぁ
確かに米子沢はデート沢なのかもしれないなぁ
パートナーの姿を見ながら思わずため息が出たが、お互い様なので黙っておくことにした
いよいよ水流も細くなり、避難小屋への踏み後を上がる
風が強いので小屋に入って身支度とエネルギー補給を済ませる
山頂から下ってきた方が小屋に入ってきた
山頂は相当風が強いらしい
心して巻機山の山頂まで往復
途中、霧が晴れて巻機の草原を一望
なんという事でしょう!
真っ白な視界の中に、このような美しさが秘められていたとは!
これまでベールに隠されていたこの景観は、今日この時のためにあったとでもいうのでしょうか
このタイミングで、この景観
解放感が溢れて全てが美しく見えるのは、私だけではないはずだ
もしこれがデートなら運命を感じてしまう場面
そして再びパートナーの姿を見て我に返るが、やはりお互い様なので黙っておくことにした
その後、辺りはガスに巻かれて真っ白となり、黙々と山頂に向かう
風は山頂に近づくほどに強まり、まっすぐ歩くのも辛い
「nksさん、このあたりですよ」
「あぁ、そうですね」
まぁ、これが現実というものだ
霧が晴れたときの感動とは対極のように山頂を事務的に往復する
後は今日の余韻を噛みしめながら高度を落としていく
見極めの難しい天気読みと決行判断
中流部のゴルジュと侮れない濡れた大ナメの歩き
想定通りのタイムスケジュール
こういった経験が、山の素養を育てていく
考えてみれば、自分も手探りで山を求めていく中で薄氷を踏むような山もあった
取り返しようのない失敗こそなかったものの、それはただの幸運に過ぎなかったのかもしれない
成功は自信という美酒と共に隙を作る
そして失敗は挫折と共に成長を生む
一足飛びに成功を手に入れることは大変魅力的だ
その成功の中に、いかに失敗を見出せるのか
三度、パートナーの姿を見る
晴れ晴れとした顔で歩く彼に、我に返る
今そんな説法は響かないだろう
私とてこの山行に学びが無かったわけではあるまい
山を共にしてこそ、友情は深まる
デート、というよりは同志だな
そんなこと、言わなくてもわかっている
もちろん、お互い大人なので黙っておくことにした
風が森を吹き抜ける
ほのかに秋の匂いがした
sak
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