ACC-J茨城 山岳会備忘録

山でのあれこれ、便りにのせて。 ただいま、ACC-J茨城では新しい山の仲間を募集中です

八ヶ岳・大同心正面雲稜ルート

2026/8/9 八ヶ岳・大同心正面雲稜ルート
 
ロープをいつもの場所に掛ける
なんてことのない山行後の荷物整理
 
けれど今日は掛けたロープをしばらくの間、眺めた
あの時、私は何を思っていたのだろうか
 

 

2026/8/9 八ヶ岳・大同心正面雲稜ルート
 
前夜、小淵沢で仮眠を済ませて美濃戸へ
isiさんの車のおかげで時間的にも心理的にも大変余裕がある
それがありがたかった
 
今日の天気は午後から下り坂
午前勝負でここまで来た
北沢を赤岳鉱泉にむけて急ぐ

世間はもうすでにお盆休みの期間中
赤岳鉱泉も大変な賑わいだった
身支度をして、大同心稜を行く
大同心に近づくにつれ、あちこちからコールが聞こえる

大同心正面には2パーティ
ゆったりと身支度をしながら、その様子を見物していた

ほどなくクライムオン
慎重にロープを延ばす
 
そして核心部
ハング部を左へ弱点を突いたつもりが、ルートを外していた
 
支点が3mほど右に見える
このまま上がっても、支点が取れそうになかった
そして、態勢の立て直しが腕力頼りとなってしまう
そこから右へトラバース、と動き始めたときだった
 
気づけば、空と地面が逆さまだった
こんなに派手に落ちたのは初めてだった
 
まず手を動かした
次に足
そして、首筋を触り首を左右に振る
 
痛みは無い
 
心配して「替わりましょうか」と言ってくれたパートナーに
「すいません、なんとか行ってみます」と返答した

 
申し訳なかった
情けなかった
時間を巻き戻したいと思った
けれど、そこで立ち止まっているわけにはいかなかった
 
どんな手を使ってでも登るしかない
それだけ考えた
 

 
2ピッチ:フォロー
正面フェースから右へ凹角を行く
凹角がスタンス乏しい
スメアリングが効くので思い切り乗り込む
 
核心での出来事がまだ手先の感触として残っている
それでも、上へ上へと手が伸びた

3ピッチ:リード
草付き交じりのフェース状
25m程で先行が見えたので短いながらもピナクルで切る

4ピッチ:フォロー
フェースからバンドのトラバース
1カ所、岩が張り出していて、少しクライムダウン気味に通過する
このあたりは切れ落ちていて高度感を感じる

5ピッチ:フォロー
isiさんにリードを託す
フォローながら中段と上部が被り気味の場所があって、ここでも苦労した
1ピッチの奮闘で半ば力尽きていたからだ
 
きれいに登ることなど、もうどうでもよかった
 
手を掛ける
足を上げる
引きつける
掴めるものは掴む
なんとしてでも上へ行く
 
格好などつけていられなかった
ひどい登りだった
 
けれど――
それが、ひどく自分らしい気もした

雲が下がってきて、辺りは白霧に巻かれた
時間は昼過ぎ
大同心ノ頭でロープを解いていると、雷鳴が轟く

急いで身支度を整えて1ピッチ25mの懸垂下降
そこからは歩いて下山を急いだ

 
赤岳鉱泉で装備をまとめて、雷鳴の中を下山
時に雨も落ちたが、幸いそれほどの雨量ではなかった
 

 
美濃戸から車を走らせる
麓へと近づくにつれ、空は明るくなっていった
雲の切れ間から陽が差している
 
それなのに雨は強くなっていった
天気雨だった

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 
ロープをいつもの場所に掛ける
 
なんて格好の悪いクライミングだったのだろう
思い返すほどに、情けなくなる
しかし、あの日だけが特別だったと言い切れるのか
 
それを執念と言ったこともあった
経験と呼んだこともあった
気持ちの強さだと思ったこともある
 
けれど――
もしかすると、ただの美化だったのかもしれない
 
あの時、何を考えていたのか
そして何にショックを覚えたのか
 
ただ、
あの日、陽を浴びながら降っていた雨を思い出していた
 
 
sak